免疫学:オックスフォード・アストラゼネカ社製ワクチンに関連して、一部の出血性疾患のリスクがわずかに上昇する
Nature Medicine
2021年6月9日
Immunology: Oxford–AstraZeneca vaccine associated with slightly increased risk of some bleeding disorders
重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)に対するオックスフォード・アストラゼネカ社製ワクチン、もしくはファイザー・ビオンテック社製ワクチンの初回接種を受けたスコットランドの成人250万人について、全国規模での解析が行われ、オックスフォード・アストラゼネカ社製ワクチンに関連して、「免疫性血小板減少性紫斑病」(ITP)とよばれる自己免疫性の出血性疾患のリスクがわずかに上昇することが明らかになった。Nature Medicine に掲載されるこの報告では、オックスフォード・アストラゼネカ社製ワクチンは他の出血性疾患や血管イベントのリスク上昇にも関連していることの証拠が得られる可能性が示唆されている。これらの非常に小さなリスクは重要だが、その頻度は低く、B型肝炎、はしか、おたふく風邪、風疹やインフルエンザなどの他のワクチンと同程度である。
SARS-CoV-2に対するオックスフォード・アストラゼネカ社製ワクチン(ChAdOx1)とファイザー・ビオンテック社製ワクチン(BNT162b2)は概して耐容性が高いが、少数の重篤な副作用も報告されている。英国の医薬品・医療製品規制庁には、ChAdOx1ワクチンの初回接種2200万回と2回目接種680万回の終了後に、血小板減少症(出血性疾患)と血栓塞栓症(血液凝固障害)の報告が209例届いている。
SARS-CoV-2ワクチン接種と血液疾患発症とが関連している可能性を調べるため、A Sheikhたちは、2020年12月から2021年4月までの期間にSARS-CoV-2ワクチン(最も多いのはChAdOx1またはBNT162b2)の初回接種を受けたスコットランドの成人253万人(18歳以上の成人人口の57%に当たる)に対して、ワクチンに関連した出血や血管イベントの症例を詳しく検証した。その結果、これらの人々の間では、接種後最大27日間にわたって、ChAdOx1ワクチンに関連してITPのリスクがわずかに上昇することがわかった。ITPは患者の一部で小規模な内出血を引き起こすことがあり、多量の出血や長期的な病気が見られる場合もある。こうした症状が起こる頻度はワクチンの初回接種10万回当たり、1.13例と推定された。また、この検証により、ワクチン接種後最大27日間にわたって、他の動脈血栓や出血イベントのリスクもChAdOx1に関連してごくわずか上昇することが明らかになった。しかし、ChAdOx1と脳静脈洞血栓症(脳内で血栓が生じる珍しい病気)の間に関連があるという結論を出すには、データが不十分であった。BNT162b2ワクチンについては、今回調べられた有害事象のリスクが上昇することを示す証拠は見つからなかった。
今回得られた結果は、ChAdOx1ワクチン接種には非常に明確な利益があることを踏まえて判断する必要があることを、著者たちは強調している。ワクチンに関連して重大な有害事象が発生するリスクは、特に高齢者や脆弱な人々にとっては、SARS-CoV-2が原因で起こる重篤な症状や死亡のリスクに比べればはるかに低いといえる。ワクチン接種計画では年齢や基礎疾患を基準にして接種対象が選ばれるため、今回の研究では40歳以下の人の数が相対的に少なかった。今後は、より若い層を含めたさらなる研究や、ワクチンの2回目の接種に対する応答を評価する研究が必要であろう。
doi: 10.1038/s41591-021-01408-4
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