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生態学:ハンドウイルカの「シグネチャーホイッスル」に影響を及ぼすのは、遺伝的要因ではなく生息地域の環境と個体数動態

Scientific Reports

2022年5月27日

Ecology: Local environment and population demographics, not genetics, influence bottlenose dolphin ‘names’

Scientific Reports

ハンドウイルカの特徴的な鳴き声(「シグネチャーホイッスル」)は、名前と言っていいほどユニークで、個体識別に役立つ。地中海に生息するハンドウイルカは、個体群によってシグネチャーホイッスルの長さやピッチが異なっている。このことを最もうまく説明できるのは、遺伝的要因ではなく、生息地域の環境と個体数動態であることが最新の研究で示唆された。この研究結果を報告する論文が、Scientific Reports に掲載される。

ハンドウイルカ(Tursiops truncatus)は、他のイルカ種と同様に、各個体に固有のシグネチャーホイッスルを含むさまざまな鳴き声を使ってコミュニケーションを取っている。シグネチャーホイッスルについては、これまでの研究から、群れによって異なった様式が生まれる傾向のあることが示されていた。しかし、シグネチャーホイッスルの発達やその様式の違いに影響を及ぼしている要因が何なのかは分かっていない。

今回、Gabriella La Mannaたちは、188時間録音された音響データを用いて、地中海に生息するハンドウイルカの地理的分布の異なる6つの個体群のシグネチャーホイッスルの違いを分析した。これらの個体群の生息地は、コート・ダジュールのポール・クロ島、サルデーニャ海沿岸のアルゲーロ、ティレニア海沿岸のオスティア・フィウミチーノ(いずれも地中海西部)、アドリア海のツレス島とロシニ島、イオニア海のコリント湾(いずれも地中海東部)、シチリア海峡のランペドゥーサ島(地中海南部)であった。地中海東部と地中海西部のイルカの個体群の間には、遺伝的多様性があることが実証されている。La Mannaたちは、168種類のシグネチャーホイッスルを特定し、持続時間やピッチの変化などの音響特性のバリエーションをマッピングした。

La Mannaたちは、地域性(遺伝的多様性の代理指標)、地理的位置、生息地域の海洋環境(海底が泥質か海草に覆われているかなど)、個体数動態がシグネチャーホイッスルの違いに与える影響を分析した。その結果、シグネチャーホイッスルのバリエーションに最も強く影響するのは、生息地域の海洋環境と個体数であることが判明した。例えば、ランペドゥーサ島やポール・クロ島などの海草が生息する海域では、海底が泥質の海域と比べて、シグネチャーホイッスルの音のピッチが高くなり、短い鳴き声になった。コリント湾などに生息する小規模な個体群では、シグネチャーホイッスルのピッチの変化が大規模な個体群よりも多かった。

これとは対照的に、地域性、つまり遺伝的多様性は、シグネチャーホイッスルに強い影響を及ぼさなかった。La Mannaたちは、今回の知見が「音響適応仮説」を裏付けており、ハンドウイルカが、その生息地域に最も適したシグネチャーホイッスルを生み出しているという考えを示している。

doi: 10.1038/s41598-022-10920-7

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