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遺伝学:ヒトパンゲノムの概要参照配列が初めて発表される

Nature Biotechnology

2023年5月11日

First draft of a human pangenome

Nature Biotechnology

ヒトパンゲノムの最初の概要参照配列が、今週、Natureで発表される。この参照配列は、さまざまな人々のDNAの塩基配列をできるだけ多く集めることが目標とされている。今回の研究は、遺伝的に多様な被験者(合計47人)から採取した遺伝物質に基づいており、ヒトゲノムの全容解明に一歩近づいた。

ヒトの参照ゲノム(標準ゲノム塩基配列)は、2001年に概要版が発表されて以来、ヒトゲノミクスのバックボーンになってきた。しかし、単一のゲノム塩基配列に、構造バリアントや代替的な対立遺伝子の存在による遺伝的多様性を反映させることはできず、それらの一部は、当初の参照ゲノムに含まれていなかった。

今週、Natureに掲載されるヒト・パンゲノム・リファレンス・コンソーシアム(Human Pangenome Reference Consortium)の3編の論文には、ヒトパンゲノムの最初の概要参照配列と、この参照配列に基づいた2件の新たな遺伝学研究が示されている。このパンゲノムは、さまざまな民族的ルーツを持つ被験者(47人)のコホートを基に構築され、現行の参照ゲノム(GRCh38)と比べると、1億1900万塩基対と1115の遺伝子重複(1個の遺伝子を含むDNA領域が重複する変異現象)が新たに加わっている。この概要参照配列を用いた解析で検出された構造バリアントの数は、GRCh38よりも104%多く、ヒトゲノムの遺伝的多様性がさらに詳しく明らかになった。

これに関連して、この概要参照配列を用いて得られた知見が、同時掲載される2編の論文に示されている。Evan Eichlerらは、分節重複(塩基配列一致率の非常に高いDNAのまとまった領域がゲノム内の複数の部位に出現する現象)における一塩基変異(SNV)のマップを作製して、これまでマッピングされていなかった数百万のSNVを特定した上で、重複していないDNA領域のSNVと比較して、変異特性の違いを明らかにした。一方、Erik Garrisonらは、相同でない末端動原体型染色体(染色体の末端近くにセントロメアが位置している染色体)の短腕の間で組換えが起こるパターンを観察し、この染色体の間でDNAが交換される機構を示す観察的証拠をもたらした。このDNAの交換については、これまで適切なデータが得られておらず、推測にとどまっていた。

今回の知見は、350人の被験者の遺伝的多様性を記録することを目的としたヒトパンゲノムの構築という構想の中間段階にすぎない。今週号のNatureのNews & Views Forumでは、Arya MassaratとMelissa Gymrekが、こうした研究の進展の重要性を論じる一方で、いくつかの残された課題(例えば、さらに多様なサンプルを採取する必要があることなど)を克服するためには継続的な改善が必要なことを指摘しており、「そうすれば、身体的形質や臨床形質に関係する遺伝的バリアントを容易に発見できるようになり、多くの人々の健康状態が改善されることにつながることを期待できるだろう」と述べている。

さらに別の関連論文が、Nature Biotechnologyに掲載される。

doi: 10.1038/s41586-023-05896-x

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