医学:アルツハイマー病に対してまれな遺伝的抵抗性を示す2人目の患者が見つかる
Nature Medicine
2023年5月16日
Medicine: Rare genetic resilience to Alzheimer’s disease identified in a second patient
RELN遺伝子はシグナル伝達に関わるタンパク質であるリーリン(reelin)をコードしている。この遺伝子の新たに見つかったまれなバリアントが、1人の男性患者が常染色体優性(顕性)遺伝性アルツハイマー病(ADAD)に対して20年以上にわたって示した疾病抵抗性と関連することが明らかになった。このような抵抗性の報告としてはこれが2例目であり、今回見つかった新規な分子経路を治療標的にすることができれば、あらゆるタイプのアルツハイマー病に対する抵抗性を高められる可能性があり、関心を集めそうだ。
ADADはまれな遺伝性アルツハイマー病で、その原因として最も多いのは、膜貫通タンパク質プレセニリン1をコードする遺伝子PSEN1の特異的な変異である。ADADは記憶障害のような認知機能障害を若年で発症するのが特徴で、典型的な発症年齢は40~50歳である。ADADについては、アポリポタンパク質Eをコードする遺伝子(APOE)のまれなバリアント(Christchurch変異と呼ばれる)を持っている女性患者で、脳内にはアルツハイマー病の証拠が認められたにもかかわらず、発症予想年齢を過ぎてからほぼ30年近くにわたって認知機能は損なわれないままだったという症例が詳しく報告されている。
F Lopera、Y T Quiroz、J F Arboleda-Velasquez、D Sepulveda-Fallaらは、PSEN1変異を持ち、ADADの素因があるコロンビアの1200人について、臨床データと遺伝子データの解析を行い、ADADを早期発症するPSEN1変異を持つにもかかわらず、67歳になるまで認知機能が損なわれていない1人の男性を見つけ出した。この男性と以前に報告されたADAD発症が遅れた女性患者とを比較したところ、両者共に脳内にアルツハイマー病の病理学的特徴であるアミロイド病変が広い範囲にわたってかなりの程度認められたが、嗅内皮質でのタウタンパク質(微小管を安定化する脳内タンパク質)の凝集は限定的だった。嗅内皮質は、アルツハイマー病の臨床段階の早期で影響が特徴的に現れる領域である。さらにゲノム塩基配列解読が行われ、2人目の患者は別のタイプの変異、つまりRELNの新規でまれな変異であるH3447R(COLBOSと命名)を持つことが明らかになった。この変異の結果生じるRELN結合性の分子、つまりリガンドはタウの凝集を制限する効果がより高い可能性があるが、その解明にはさらなる研究が必要だと著者らは述べている。この2人の患者をADADから守るのに関わっているタンパク質のAPOEとリーリンは、共通の細胞受容体のリガンドとして機能するので、著者らはアルツハイマー病に対する抵抗性には共通する機構があるのではないかと考えている。
doi: 10.1038/s41591-023-02318-3
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