微生物学:後期新石器・青銅器時代にグレートブリテン島で流行したペストの起源
Nature Communications
2023年5月31日
Microbiology: Investigating the origins of the plague in Britain
後期新石器時代から青銅器時代に流行したペストの原因病原体だったペスト菌(Yersinia pestis)の系統がグレートブリテン島に広がったのは、今から4000年前ごろであったことを示す論文が、Nature Communicationsに掲載される。この知見は、グレートブリテン島でペストが流行した年代を示す証拠として、これまでで最古のものであり、このペスト菌系統が青銅器時代のヨーロッパ大陸にとどまらず、西方に広がって、グレートブリテン島に到達していたことを明らかにしている。
ペスト菌の絶滅系統は、5000~2500年前のユーラシアで生活していた複数のヒト個体で特定されている。その1つである「後期新石器・青銅器時代(LNBA)系統」は、ユーラシアステップから生活圏を広げたヒト集団と共にヨーロッパに広がったという説が発表されている。しかし、LNBA系統がグレートブリテン島に広がった正確な時期は分かっていない。
今回、Pooja Swali、Pontus Skoglund、Thomas Boothらは、グレートブリテン島の前期青銅器時代の2カ所の遺跡に埋葬されていた34個体から採取したDNA試料を解析して、LNBA系統を発見した。今回の研究では、4000年前ごろと決定された3例のペスト菌ゲノムの塩基配列が解読された。ペスト菌ゲノムが見つかった3個体のうち2個体は、サマセット州チャーターハウス・ウォーレンにある異例の集団埋葬地で発見され、1個体は、カンブリア州レヴェンスのリングケアン(石を環状に並べた構造の遺跡)に単体埋葬されていた。これらの塩基配列解読された3例のペスト菌ゲノムはいずれも、ノミを介した感染に重要な役割を果たしたことが知られている病原性遺伝子(ymt)を獲得していなかった、中央ヨーロッパの青銅器時代の個体で観察された亜系統のゲノムだった。その後、このLNBA系統は、2800年前ごろに中央アジアで発見された。
今回の知見は、ペスト菌のLNBA系統が4700~2800年前にユーラシア全域に広がり、グレートブリテン島から東アジアまで広がっていたことを示唆している。LNBA系統を原因とするペストの重症度は現在のところ不明だが、その流行分布が数世紀以内に広範囲に拡大したことから、感染力はかなり強かったと示唆される。
doi: 10.1038/s41467-023-38393-w
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