遺伝学:ブチハイエナの遺伝的特徴に社会的地位が反映されていた
Communications Biology
2024年3月29日
Environment: More than half of Colorado River’s water used to irrigate crops
野生の雌のブチハイエナ(Crocuta crocuta)の社会的地位は、ゲノム全体におけるDNAメチル化パターンに反映されていることが明らかになった。DNAメチル化とは、DNAの塩基にメチル基が付加されることで、DNAの塩基配列は変わらないが遺伝子発現パターンが変化する。この研究を報告する論文が、Communications Biologyに掲載される。
ハイエナは、地位の高い雌が地位の低い雌を支配することによって強制される社会的階層を形成しており、これが何世代にもわたって続き、雌の成体は、その地位を娘に引き継ぐ。今回の研究までは、ハイエナの社会的地位が雌の幼体と成体の両方に分子レベルで反映されているかどうかは分からなかった。
今回、Alexandra Weyrichらは、タンザニアのセレンゲティ国立公園に生息するブチハイエナ42匹の糞便試料から抽出したDNAを解析した。地位の高い雌(9匹の成体と9匹の幼体)から18点の試料が採取され、地位の低い雌(9匹の成体と15匹の幼体)から24点の試料が採取された。
解析の結果、Weyrichらは、地位の高いハイエナと地位の低いハイエナの間でメチル化レベルが異なる149カ所のゲノム領域を特定し、地位の低い成体と地位の高い幼体においてメチル化レベルが高い傾向を見いだした。このうちの44カ所のゲノム領域には、主にエネルギー変換、免疫系機能、細胞膜を介したイオンの輸送、腸-脳軸にとって重要なシグナル伝達経路であるグルタミン酸受容体シグナル伝達に関連する遺伝子が含まれていた。Weyrichらは、これらの遺伝子のメチル化に差が生じている原因について、地位の低い雌は地位の高い雌に比べて食料を十分に入手できないためではないかと推測し、そのために地位の低い雌が長距離の採餌旅行に参加する頻度が高くなり、それが免疫応答の障害の一因となった可能性があると述べている。Weyrichらは、DNAメチル化パターンに基づいて社会的地位を推定する予測ツールを訓練した結果、149カ所のゲノム領域を使ってハイエナの社会的地位を80%の精度で予測できる可能性のあることを明らかにした。
以上の知見をまとめると、野生のブチハイエナの雌の成体と幼体における特定のDNAメチル化パターンに社会的地位が反映されていることが示唆された。Weyrichらは、これらのDNAメチル化パターンの生理学的影響の可能性を調べるためには、今後さらなる研究が必要だと指摘している。
doi: 10.1038/s42003-024-05926-y
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