分子生物学:運動の健康効果の基礎をラットの研究で解明する
Nature
2024年5月2日
Molecular biology: Uncovering the underpinnings of exercise benefits in rats
ラットの研究で、持久運動トレーニングに対する分子レベルの応答(性特異的応答を含む)が解明されたことを報告する論文が、Natureに掲載される。今回の知見は、運動が健康と疾患に与える影響を洞察する新たな手掛かりとなる可能性がある。
定期的に運動することに健康効果(例えば、心血管疾患、代謝性疾患、がんなどに対する防御効果)があることを裏付ける証拠は数多く存在している。しかし、こうした健康効果の基礎をなす機構は、あまりよく理解されていない。MoTrPAC(Molecular Transducers of Physical Activity Consortium)は、運動に対する各種応答に関与する分子過程を研究することで、こうした知識の欠落を埋めることを目指している。
今回、Stephen Montgomeryらは、雄と雌のラットを用いて、トレッドミルを使った持久力トレーニングを8週間実施し、それによって臓器の内部に生じた生体分子の変化を調べた。このトレーニングの期間中の複数の時点で、複数の臓器、固形組織、血漿、全血から試料が採取され、それらを基に合計9466アッセイが実施された。そして、複数のオミクスプラットフォーム(プロテオーム、メタボローム、エピゲノムなど)を用いて持久力トレーニングに対する時間的応答が測定された。その結果、運動に対する応答として、複数の分子変化(免疫応答、代謝応答、ストレス応答、およびミトコンドリア経路の広範な調節を含む)が特定された。そして、これらの応答には性差があることが、複数の組織(皮下脂肪など)と一部の臓器(副腎など)で明らかになった。例えば、副腎に関しては、特定の遺伝子が雌ラットで発現低下する一方、雄ラットで発現上昇していることが判明し、これらの遺伝子経路とホルモン経路の関連も明らかになった。
Montgomeryらは、こうした変化の多くには、ヒトの疾患(例えば、炎症性腸疾患、心血管疾患、組織の損傷と回復など)に対する防御効果があるという可能性を示しつつ、今後、ヒトでの研究によって確認する必要があることを指摘している。この論文に関連したMoTrPACによる複数の論文が、Nature MetabolismとNature Communicationsに掲載される。
doi: 10.1038/s41586-023-06877-w
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