【老化】宇宙飛行した線虫の老化速度
Scientific Reports
2012年7月6日
Ageing: Worms for the space age
「宇宙環境は生物の老化速度に影響を与えるのか」というテーマで線虫(Caenorhabditis elegans)の研究が行われた。ポリグルタミン凝集体は、加齢によって蓄積することが従来の研究で判明しているが、今回、遺伝子導入によってポリグルタミン凝集体を発現するようにした線虫を宇宙環境に置いた実験で、このポリグルタミン凝集体の形成が抑制される可能性が明らかになった。今回の研究は、宇宙環境からのシグナルに対するニューロン応答と内分泌応答を通じて、線虫の老化が遅くなる可能性を示唆している。詳細を報告する論文は、Scientific Reportsに掲載される。
動物の寿命と老化速度は、気温、酸素、食物摂取などの環境要因の影響を受けている。一方、宇宙の微小重力環境が老化に及ぼす影響については解明が遅れており、その評価は難しい。今回、東京都健康長寿医療センター研究所の本田陽子たちは、この問題を解決するため、宇宙飛行をした線虫の老化マーカーを調べて、宇宙環境で発現が変化する遺伝子が寿命の調節にどのようにかかわっているのかを探った。
国際宇宙実験線虫プロジェクトにおいて、線虫の培養が行われ、線虫は、2日間宇宙飛行し、国際スペースステーションで9日間滞在した。その後、線虫は液体窒素で急速冷凍されて地球に持ち帰られた。それと同時に、地上では、対照群の線虫について同じ実験が行われた。地上での実験では、宇宙で発現低下した7種類の遺伝子のそれぞれを不活化させた線虫の寿命が延びた。これらの遺伝子は、ニューロンのシグナル伝達あるいは内分泌シグナル伝達と関係するタンパク質をコードしており、そのほとんどが、寿命調節に重要な転写因子DAF-16又はSKN-1を通じて、あるいは、食餌制限シグナル伝達を通じて寿命調節を媒介すると考えられている。
寿命調節に関係すると考えられる遺伝子が宇宙飛行におけるレベルに匹敵する発現低下を起こした場合の影響を調べる研究は、これからも続ける必要があるが、今回の研究では、宇宙飛行した線虫の老化速度が、対照群の線虫よりも遅いことが示唆されており、宇宙飛行によって線虫の寿命が延びる可能性が暗示されている。
doi: 10.1038/srep00487
注目の論文
-
12月13日
Nature Medicine:2025年の医療に影響を与える11の臨床試験Nature Medicine
-
12月13日
進化:最古の現生人類ゲノムから、4万5,000年前にネアンデルタールとの混血があったことが判明Nature
-
12月12日
進化:ワニはどのようにして皮膚を得たのかNature
-
12月12日
天文学:Firefly Sparkleが初期の銀河形成に光を当てるNature
-
12月12日
医学:マウスの子癇前症に対するmRNA療法の提供Nature
-
12月10日
Nature's 10:2024年の科学に影響を与えた10人Nature