別種の恐怖
Nature Neuroscience
2013年2月4日
Neuroscience: A different kind of fear
脳の小さい領域である扁桃核は、人びとの恐怖やパニックに際し必ずしも必要ではないとの研究が、今週のオンライン版に掲載される。ヒトや動物での数十年にわたる研究により、扁桃核が恐怖に際し大きな影響を及ぼす役割をもつと示唆されてきたので、この研究結果は驚きをもって受けとめられる。
このことを示すために、Jon Wemmieほかの研究者は、扁桃核に障害を持ち、恐怖を感じないというまれな患者3人について調べた。この研究で3人の患者が経験したのは、二酸化炭素(CO2)を吸引すると呼吸が刺激され、恐怖を呼び起こす場合や、パニックに襲われることさえあるというものだ。患者の1人については、これは子どものころ以降、初めて感じる恐怖だった。この患者や同様の障害をもつ他の患者についてのこれまでの研究では、生命を脅かすような悲惨な出来事なども含め恐怖を呼び起こすさまざまな刺激に対し、扁桃核の障害は恐怖の欠如をもたらすと示唆されている。Wemmieほかによる今回の発見は、恐怖を感じるのにかならずしも扁桃核を必要としない状況があることを示している。
なぜ二酸化炭素が扁桃核なしに恐怖を呼び起こしほかの刺激ではそうならないかの理由を、Wemmieほかは明らかにしていない。しかし、恐怖を呼び起こすたいていの事柄は視覚経路や聴覚経路によって感知されており、これら感覚は扁桃核に投射される。これに対し、高濃度の二酸化炭素は脳幹にある受容体によって感知され、さまざまな生理的変化を引き起こしかねず、それが扁桃核に加えいくつもの異なる脳領域を活性化させる可能性がある。
doi: 10.1038/nn.3323
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