意外な難物
Nature Neuroscience
2009年8月31日
A tough nut to crack
扁桃体は脳にあるクルミ大の構造体で、以前から目されていたよりも広範な社会的、情動的刺激の処理に重要であることが、Nature Neuroscience(電子版)に掲載される2つの論文で示唆されている。
脳のこの部分は長い間、無意識の情動処理と結びつけて考えられていたが、今回の研究によりこの小さな部分が明確な社会的判断や個人的空間範囲の調整など、もっと高度な機能にもかかわっているかもしれないことがわかった。
扁桃体を両側とも損傷した患者SMは、顔のさまざまな表情の画像を見せられたとき、恐怖の表情を認識できない。この原因はヒトの機能的画像診断や、動物実験に基づき、迅速な情動処理に欠陥があるためと考えられた。しかしN Tsuchiyaらは、SMが時間制限下においては恐怖刺激に適切な反応を示すことを発見した。時間制限がないときにはSMは顔の表情の画像を類別することが全くできなかった。このことは、扁桃体が意識下の社会的判断を下すのに重要である可能性を示唆する。
Kennedyらによる別の研究では、SMがパーソナル・スペースの感覚を全く欠いているという観察をさらに綿密に検討している。SMは実験者ととても近い距離で面と向かい合っても苦痛でない。他人はもっと離れて立つほうを好むのに彼女は気づいているが、接近することを単に不快と感じない。Kennedyらは、実験者がすぐ近くにいると知らされると、対照被験者の扁桃体が活性化するとも報告している。これら2つの研究結果は、扁桃体が以前から目されていたよりも広範な社会的刺激や情動的刺激を処理するのに重大な意味をもつことを示す。
doi: 10.1038/nn.2380
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