2014年8月号Volume 11 Number 8
特集:驚異の生命設計図
より精緻にゲノム解析を行えるようになったことで、思いもよらない生物の仕組みが次々と明らかになっている。今号では、馴染みのある生き物たちに関する、驚くべき最新の研究成果を集めた。中でも、勝間進(東京大学)らが突き止めたカイコガ性決定の最上流因子は、タンパク質ではなくRNAであったことや、概要ゲノム配列が明らかになったクシクラゲの神経系は他に類を見ないものと分かったことは興味深く、今後は科学分野のみならず経済・産業にも大きな影響を及ぼすことだろう。
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開発途上国の感染症撲滅を目指して ― GHIT Fundの挑戦
Editorial
News
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カイコの性決定の最上流因子はタンパク質ではなくRNAであった!
カイコの性決定の最上流因子は80年間不明であったが、今回、カイコの雌性がタンパク質ではなく小分子RNAによって決定されていることが示された。小分子RNAが性決定の最上流因子である生物はこれまで報告されていない。
タコの足が絡まらない理由
タコは、触腕が絡まないように考えているわけではない。では、なぜ絡まないのか?今回、切断した触腕を使った実験から、タコの触腕が中枢の脳による制御を受けずに動く仕組みが明らかになった。
コオロギの「沈黙」という選択
ハワイに生息するコオロギの雄が、寄生虫から身を守るために鳴くのをやめた。しかもこの変化は、驚くほど短期間のうちに2つの島の異なる個体群で 同時に並行して起きていた。
糖尿病治療に有効なインスリン分解酵素阻害剤の発見
インスリンを分解する酵素を生体内で阻害できる分子がようやく見つかった。この分子を投与することで、マウスでは血糖を調節できることが示された。
心臓病の幹細胞療法に対する疑い
幹細胞を用いた心臓病治療の臨床試験についてのこれまでの報告を網羅的に 分析した研究から、この心臓病治療の効果に疑義が浮上している。
英国フランシス・クリック研究所の挑戦
ロンドンに生物医学研究の新たな拠点が誕生する。この研究所には物理学者や数学者が大勢雇用される予定で、これは、生物学に物理学の専門知識を積極的に活用する動きが 活発化していることの表れだ。
テキストマイニングで未来の技術を予測する
米国の情報機関は、2011年から、特許や科学論文の文言を分析して今後の重要技術を発見するプロジェクトを進めている。このプロジェクトがいよいよ最終段階に入った。
「売り手市場」のマイクロバイオーム企業
人体に定着している細菌から作られる医薬品が臨床化に近づいている、という見方が投資家の間で広がっている。製薬大手企業がその可能性に目を付け始めたためだ。
深まるクシクラゲの謎
クシクラゲの概要ゲノム配列が発表され、独特の神経系が洗い出された。他の生物とはあまりに異なる神経系が明らかになり、さらに謎が深まっている。
News Features
天然痘の監視は終わらない
史上最大級の恐ろしい疫病の名残が、冷凍のミイラや、手紙に同封されたかさぶたに含まれているかもしれない。この感染症がゾンビのように蘇ったとき、私たちは十分に対処できるのだろうか。
地平線に見えてきた複雑性
コンピューター科学の分野で生まれたある概念が、基礎物理学においても重要な役割を果たし、時空の新しい理解への道を示す可能性がある。
Japanese Author
極低温電子顕微鏡が可能にする、膜タンパク質の構造解析
酵素や転写因子などのタンパク質は、三次元結晶を用いたX線構造解析やNMRなどによる解明が進んでいる。一方、膜に埋まったタンパク質は、本来の構造を維持したままの結晶化が困難なことから解析が遅れている。そうした中、名古屋大学の藤吉好則特任教授は、自らの手で極低温電子顕微鏡と呼ばれる特殊な電子顕微鏡を開発し、膜タンパク質研究を牽引し続けている。
News & Views
ゾウリムシの「接合型継承の謎」を解明
原生生物であるヨツヒメゾウリムシは、接合後も子が親の接合型を常に維持している。この遺伝の仕組みは、ゲノムに外来DNA塩基配列が入り込まないように、RNA誘導型のDNA削除経路が働いてゲノムを守っている結果であることが明らかになった。
血液脳関門を通過できる2つのルート
血液脳関門では、脳への脂質の輸送と、トランスサイトーシスによる分子の輸送が行われているが、この2つの過程がどちらもMfsd2aという1つのタンパク質によって調節されていることが明らかになった。
News Scan
土星で衛星誕生中
環の中で小さな月が生まれつつあるらしい
ちらりと見えた?暗黒物質
銀河中心からの謎のガンマ線は暗黒物質粒子を示す初の信号かもしれない