2015年11月号Volume 12 Number 11
エボラの次の新興感染症に備える
2013年12月、ギニア南東部で原因不明の熱病の発生が相次いで報告された。ギニア政府が原因を特定し世界保健機構(WHO)に報告した2014年3月末にはすでにアウトブレイク(集団発生)になっていたが、国際的な対応は2014年9月まで本格化しなかった。WHOの国際保健規則では対応に当たるのは原則として当事国で、途上国の支援には触れられていなかったのだ。また、貧困地域で蔓延する疾患に対して、新薬・ワクチン開発が積極的には行われていないため、世界はこれらの疾患に対し無防備な状態である。パンデミック(世界的流行)を防ぐためにはどうしたらよいのだろう。
Editorial
News
磁石にならない金属が磁石に!
鉄やコバルト、ニッケルは磁石につき、自身も磁気的に分極して磁石となる強磁性体だが、銅やマンガンは磁石につかない非強磁性体だ。今回、銅やマンガンの磁気的性質を変えて強磁性体にできる技術が開発された。
死線を越えると遺伝的多様性が高まる
ショウジョウバエを使った実験で、病を乗り越えた雌からは遺伝的多様性が高い子が生まれるという結果が報告された。
超音波で線虫の脳細胞をスイッチオン
「音遺伝学(Sonogenetics)」の技術で、線虫以外の動物でも非侵襲的な特定ニューロンの刺激が可能になるかもしれない。
免疫機構に検知されない薬物運搬ナノ粒子
血小板の細胞膜を身にまとった薬物運搬用のナノ粒子が開発された。このナノ粒子は、免疫機構を回避できる上に血小板の特徴も備えており、血管損傷部位に集積したり、細菌を効率的に吸着したりすることが可能だ。
脳の小断片の3D画像化に成功
マウスの脳の極めて小さい組織片ではあるが、詳細に観察できる三次元デジタルマップとして再構築された。この成果を人工知能の向上に応用したいと考える米国の関連機関は、今後の研究に数十億円規模の資金提供を決めた。
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日本の原発、再稼働
福島第一原発事故を受けて全ての原発が停止していた日本で、初めて川内原発が再稼働した。原子力発電を再開して火力発電への依存度を下げれば二酸化炭素の排出量は抑えられるが、気候変動を食い止められるほどの削減量ではない。
硫化水素が最高温度で超伝導に
ごくありふれた物質が、これまでで最も高い温度で超伝導状態になることが分かった。最高温度の更新は21年ぶりで、この意外な実験結果に今、追試や理論研究が次々と行われている。
支援決定で、ギリシャの研究者たちにも明るい兆し
欧州連合はギリシャへの金融支援を決定した。その結果、凍結されていたギリシャへの大規模研究助成金のうち 2件が交付されそうだと、ギリシャの研究相は話す。
News Features
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エボラの次の新興感染症に備える
伝染病の流行や汎発流行に対する人類の備えは十分とはいえない。けれども、西アフリカで発生したエボラ出血熱の大流行に対する恐怖が、そんな状況を変えるかもしれない。
ダニ媒介性感染症をめぐる問題
ライム病をはじめとするダニ媒介性感染症は大きな問題となっているが、抑止する方法について研究者らが何も策を練っていないわけではない。では、いったい何が障害になっているのだろうか。
Japanese Author
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「プログラム合成」で、究極の構造多様性を征服する
ベンゼン環は、有機化学の象徴ともいうべき構造であり、天然・人工を問わず多くの化合物の基本単位だ。このベンゼン環に各種の置換基を導入することで、多様な性質を引き出すことができ、例えば液晶材料・有機EL・医薬品などの高付加価値化合物がここから生み出される。このため、ベンゼン環上の望みの位置に必要な置換基を導入する手法の開発は、化学の黎明期から変わらぬ重要なテーマだ。このほど名古屋大学の伊丹健一郎教授、山口潤一郎准教授らのグループは、ベンゼン環の6つの炭素に、全て異なる芳香環が導入された「ヘキサアリールベンゼン」の合成に成功した。その意義、研究の経緯などを、両博士に伺った。
News & Views
肝臓の細胞量維持に重要な細胞集団を発見
マウスでの実験で、これまであまり評価されていなかった肝細胞集団の1つが、日々の肝臓細胞量の維持に重要な役割を担っていることが分かった。この細胞群は近傍の静脈からのシグナルによって誘導・維持されている。
世界最短波長の原子準位X線レーザー
これまでで最も波長の短い原子準位レーザーが、X線自由電子レーザー施設「SACLA」(兵庫県佐用町)を使って開発された。このレーザーは、わずかに異なる光子エネルギーに調節された2つのX線パルスを銅箔に照射するもので、これによって、波長スペクトルの幅が非常に狭いX線レーザー発振が実現した。この成果は、非常に安定したX線レーザーの実現につながる可能性がある。
無痛のスマートインスリン・パッチ登場!
血糖値の上昇を感知してインスリンを放出するよう設計された小型のパッチが開発された。このパッチには微細な針がたくさん付いているが、皮膚に貼り付けても痛くないという。実用化すれば、インスリン注射が必要な糖尿病患者の苦痛や不便さを解消できそうだ。
News Scan
歯垢で探る古代人の健康と暮らし
食べかすから細菌、DNAまで、多くを保存したタイムカプセルに注目