2016年7月号Volume 13 Number 7
がんの進化を利用した治療戦略
腫瘍は遺伝学的に異なる細胞の集まりだ。それ故、抗がん剤の投与前から抵抗性の変異を獲得した細胞が存在していることもある。そして抗がん剤を投与するとその細胞が生き残り、競争相手のいなくなった環境でどんどん増える。ならば、抗がん剤が効くがん細胞をある程度残し、耐性のある細胞が増えないように競争させればいいのではないか? このような「進化の原理」を利用したがん治療法の研究が始まっている。
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「私」とNature:“ねむけ”の謎を解明したい
筑波大学大学院時代に見つけた血管収縮物質が世界の研究者の注目を集め、米国テキサス大学にスカウトされて1991年に渡米。後を追って留学してきた後輩の櫻井武(現・筑波大学 国際統合睡眠医科学研究機構;IIIS)とともにオレキシンを発見する。この脳内の神経伝達物質が睡眠と覚醒に関係していることから、本格的に睡眠学の研究を開始。現在IIISを主宰して、「ねむけとは何か」の解明を目指している。
Editorial
Research Highlights
飛び回る蚊の軌跡を分析するアルゴリズム
特殊なビデオカメラ追跡システムを使って蚊の飛行を観察した結果、夜間、蚊帳の中で寝ている人がいる室内では、その頭の近くでほとんどの時間を過ごしていることが分かった。
News
うつ緩和はケタミン代謝産物の作用か?
麻薬ケタミンの分解産物で、ケタミンのような副作用なしでうつ状態を改善できることが、マウスでの実験で示された。
マクロライド系抗生物質候補の全合成に成功
単純な構造の化合物のパーツを組み立てていくという手法で、300種以上のエリスロマイシン類似体が合成された。その中には、多剤耐性菌に対して抗菌活性を有するものもあった。
「あかつき」から届いた最初の金星観測データ
金星周回軌道への再投入に成功し、見事復活を遂げた日本の金星探査機「あかつき」。今回公開されたのは試験観測の結果だが、そこには全球を覆う硫酸の雲の縞模様や大気中に見られる弓の形をした模様など、これまで目にしたことのない金星の姿が捉えられていた。
ヒト脳プロジェクトが計算ツールを公開
欧州のヒト脳プロジェクト(HBP)が計算ツールを公開し、計画は本格的に始動した。
量子の世界は直観できる?
人間の頭脳は、量子力学の奇妙な法則を、論理を介することなく理解できることが、ゲームによって示された。
CRISPRマッシュルームは米国では規制対象外に
CRISPR–Cas9法で作製されたキノコが、当局の監督を受けずに栽培・販売できることになった。
実験用マウスの免疫系は未発達のまま
実験用マウスは、その飼育環境が原因で免疫系が十分に成熟していないことが明らかになった。だが、ペットショップで飼育されているマウスとの同居により、ヒト成人に近い免疫系を持つようになるという。
ゲノム探索でヒットを狙う製薬会社
アストラゼネカ社は疾病に関連付けられる「まれな塩基配列」を探し出すため、200万人分のゲノムを調べる大規模事業を開始する。
抗ヘビ毒血清不足に立ち向かうための新手法
長年ヘビ咬傷の治療に用いられてきた抗ヘビ毒血清の世界的な不足が問題になっている今、入手困難なヘビ毒に代わり免疫応答を誘発する人工抗原や、毒素を中和する人工抗体の作製などの新手法に期待が高まっている。
News Feature
がんの進化を利用した治療戦略
他のあらゆる生物と同じく、腫瘍にも自然選択が働いている。がんの治療法の開発にこの進化の原理を利用しようという動きが現在高まっている。
Japanese Author
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次世代電池を牽引する、全固体電池開発
広く普及しているリチウムイオン電池の3倍以上の出力特性を持つ、全固体(型)セラミックス電池が開発された。開発に成功したのは、東京工業大学物質理工学院の菅野了次教授、トヨタ自動車の加藤祐樹博士らの研究グループで、リチウムイオンの伝導率がこれまでの2倍という過去最高の性能を誇る固体電解質の発見によって実現した。次世代の自動車開発、スマートグリッド拡大などにつながる有力な蓄電デバイスとして期待される。成果は今年1月に創刊したNature Energy の4月号に発表された。菅野教授、筆頭著者の加藤博士に研究の意義、今後の展望などについて伺った。
News & Views
ご近所にあった超新星
深海底の堆積物に含まれる超新星由来の放射性同位体の測定と、それらの同位体がどのように地球に到達したかのモデル化から、生物の進化に影響する可能性があるほど地球の近くで、多数の超新星爆発が起こっていたことが分かった。
受容体の構造からSSRI系抗うつ剤の作用機序が明らかに
セロトニン輸送体タンパク質のSERTが、2種類の選択的セロトニン再取り込み阻害剤(SSRI)と複合体を形成した状態の構造が解かれ、これらの薬剤が作用する仕組みが明らかになった。
News Scan
DNA鑑定の死角
他の犯罪捜査証拠と同様に妄信は禁物だ。
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