2012年8月号Volume 9 Number 8
冷戦時代の放射線照射実験にスポットライト
福島原発事故を受け、X線CT診断など低レベル放射線の問題に関心が高まっているが、影響はきわめてわずかであり、ほとんど何もわかっていない。しかも、新たな動物実験を実施しようとしても、費用や時間などから不可能に近い。こうした中で、冷戦時代に行われた実験の組織標本に関心が集まっている。例えば旧ソ連のオジョルスクでは、1950年代初めから25万匹近い動物を使った照射実験が行われたが、国家の崩壊とともに、多くの標本資料が失われた。しかしいま、ヨーロッパの支援によって、実験データのデジタル化などの対策が進められている。
Editorials
反GM運動の一部は、地球規模の野蛮な行為
英国Rothamsted社における遺伝子組み換えコムギの試験圃場を、環境保護団体が破壊するという声明を出した。科学的に未解明な問題と向き合わず、すでに結論ありきの破壊行為は、恥ずべき蛮行でしかない。
News
進化した脳制御型ロボットアーム
四肢麻痺の患者の思考で制御できるロボット補助器具が作製された。
トマトのゲノムプロジェクトが結実
トマトのゲノムが解読され、風味も収量も満足のいく品種開発のてがかりとなるかもしれない。
惑星になれなかったベスタ
ドーンによる小惑星ベスタの観測から、惑星形成過程が明らかになるかもしれない。
福島第一原発事故による被曝量の国際評価
国連科学委員会と世界保健機関は、それぞれ独自に、福島第一原発事故による放射線被曝について包括的な評価を進めてきた。それによると、原発周辺地域の住民や原発作業員の健康に及ぼす影響は、非常に小さいとする調査結果が出た。
研究者のための新しいIDシステム
研究者に固有の識別子を付与するORCID(オーキッド)システムによって、学術出版物の追跡が、容易かつ正確にできるようになる。
ガンマ線バーストで初期宇宙を探る!?
ガンマ線バーストと呼ばれる短時間の爆発的な閃光には、宇宙の歴史のてがかりが含まれている。そこで、これを調べて初期宇宙を探る試みが始まっている。
News Features
放射線照射実験の貴重な標本を救出せよ!
かつての冷戦時代、放射線の健康への影響を調べるために、世界各地で実験動物を使った大規模な放射線照射実験が実施された。時は移り、こうした組織標本のコレクションが今、廃棄の危機に直面している。しかし、これらの標本は、特に低レベル放射線の危険性に関する我々の疑問に答えてくれる可能性があり、現在、世界中の研究者が、その救出・保存に取り組んでいる。
ミクログリアは働き者の庭師
脳内の免疫担当細胞であるミクログリアは、かつては消極的な監視役だと考えられていたが、最近になって発生中のニューロンの「剪定」に積極的に関与し、重要な役割を果たしているらしいことがわかってきた。
Comment
Japanese Author
生体分子を「見たい!」
筋肉の収縮は、アクチンとミオシンの相互作用で生じる分子レベルの力が積み重なって起こる。このミクロの動きを実際に見たい。難波啓一教授は学生の頃、そう思った。だが、アクチン繊維の太さはわずか10nm。これを見るなんて、ほとんど不可能に近かった。それから30数年、ついにアクチン繊維を「見る」ことに成功。そして、今年、日本学士院賞と恩賜賞を受賞。難波教授にお話をうかがった。
News & Views
体内時計に効く薬
体内時計という仕組みは、動物の行動や生理を、地球自転の24時間周期に同期させている。この時計のいわば歯車を標的とした薬剤が、肥満などの代謝障害に有望であることがわかった。
太陽の100万倍のスーパーフレア
太陽で見られた過去最大のフレア(太陽大気で起こる爆発現象)の実に100万倍以上ものエネルギーを持つフレアが、太陽とよく似た星で起こっている。この「スーパーフレア」現象について、今回、宇宙望遠鏡ケプラーの観測データが詳しく調べられ、その生成機構に関するこれまでの仮説に、疑問を投げかける結果が得られた。
News Scan
カメを宇宙から追跡する
オサガメとトロール漁船が交錯する場所が突き止められた
ジャガーは戻ってくるか?
長い論争の末に、米国政府が近く保護生息地を指定する