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Nature Video活用事例

サンゴ礁を取り巻く危機

Coral close-ups

An underwater microscope is letting scientists bring their lab into the ocean. The new technology is revealing previously unseen behaviours from the tiny polyps that make up vast coral reefs.

Read the paper here: http://nature.com/articles/doi:10.103...

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大きなサンゴ礁を造り出す小さな生き物

色とりどりの美しいサンゴ礁は、長い年月を経て、海中の微生物のはたらきによって形成されるものだ。日本では南西諸島や伊豆諸島、小笠原諸島などで見ることができる。サンゴ礁は「海の熱帯林」などと呼ばれることからもわかるとおり、そこには魚類やナマコ、貝類などの多様な生物がすみ、地上の熱帯雨林のように、複雑で豊かな生態系をもつことが明らかになっている。

サンゴはクラゲやイソギンチャクなどと同じ刺胞動物の仲間で、地球上にはおよそ800種類のサンゴが存在すると言われている。サンゴには石灰質でできた骨格をつくる種類があり、これらが集まって造られたものがサンゴ礁である。このサンゴ礁を造るサンゴを「造礁サンゴ」と呼び、非常に小さな動物であるが、そのからだのなかに褐虫藻という植物プランクトンを取り込み、共生している。褐虫藻が光合成によって生み出した物質を栄養分として活用できるため、サンゴが急速に成長できると考えられているが、褐藻虫とサンゴとの共生関係については現在もよくわかっていない点があり、研究が進められている。

サンゴは顕微鏡でなければ詳細に観察できないので、海中での生態を詳細に調べることは難しかったが、動画で紹介されているように、最近では海中に顕微鏡を持ち込み、直接的に観察することができるようになり、サンゴの海中での生態が明らかになってきた。

映像には異なる種類のサンゴが近づくと、自らの生息域を確保するため、繊維質のフィラメントや消化酵素で攻撃する様子が収められている。また、研究者が「サンゴのキス」と呼ぶ、サンゴが互いに接触しあい、まるで何らかの情報伝達を行っているかのような行動をすることも明らかになった。

実際の海でサンゴの生態を研究することは、現在問題となっている「サンゴの白化」についての知見をもたらす可能性がある。

グレートバリアリーフの大規模なサンゴの白化

サンゴ礁を形成しているサンゴと共生している褐虫藻が死滅したり、あるいはサンゴから出て行ってしまうと、サンゴの色が白くなる。この状態を「サンゴの白化」と呼ぶが、この状態が長く続くとサンゴ自体も死んでしまうことが多いという。褐虫藻は高い海水温の環境では生存できないことがわかっており、2016年にオーストラリア北東部の沿岸を襲った海の熱波によって、グレートバリアリーフの実に90パーセント以上が白化してしまったことが研究で明らかになった。また、この熱波の後はサンゴの種類も変わり、多くの生物が関わっていたサンゴ礁の生態系も大きく変わってしまった。

世界的なサンゴの白化を招いた海水温の上昇は、これまで1998年と2002年にも発生した。成長の早いサンゴであれば、白化したのちも回復できると考えられていたが、海水温の上昇などをはじめとする温暖化事象の発生頻度が増えており、サンゴ礁の完全な回復を望むことは難しいと研究者らは考えている。

ジェームズ・クック大学(オーストラリア)のサンゴ礁の研究者Terry Hughesは、人類が気候変動の抑制に失敗し、世界の気温が産業革命以前の状態から2℃以上の大幅な上昇となれば、サンゴ礁の生態系がもたらす恩恵を失ってしまうだろうと警告している。

学生との議論

Credit: Lisa-Blue/E+/Getty

サンゴを脅かすのは、海水温の上昇だけではない。海中に投棄されたプラスチックも、サンゴには危険な存在だ。2015年には、グレートバリアリーフに生息するサンゴの胃腔に、消化されないプラスチックが存在することが確認された。研究者らは、この消化されないプラスチックが原因で、サンゴの餌であるプランクトンを通常どおりに消化できなくなってしまう可能性を指摘している。

最近では、海に捨てられたプラスチックゴミが、サンゴの白化現象を引き起こしやすくする可能性が示されている。プラスチックは表面にいろいろな物質を付着させやすいため、付着した病原菌にサンゴが感染したり、またゴミそのものによってサンゴが傷つき、感染しやすい状況をつくりだしているという。

海に捨てられたプラスチックは、太陽光や熱によって砕けやすくなり、小さくはなるが、消失することはない。直径5ミリメートル以下のプラスチックゴミは「マイクロプラスチック」と呼ばれ、長期間にわたって環境に影響し続けるのではないかと懸念されている。現時点ではマイクロプラスチックの環境への影響が明らかになっているわけではなく、多くの研究者が実態を把握しようとしている。

学生からのコメント

サンゴが動物だったことを初めて知って驚いた。自分が見たサンゴは白かったのだが、それらは白化してしまったサンゴだったと知り、さらに驚いた。サンゴにも地球温暖化が影響を与えているとのことだが、この進行をなんとしても止めなければならないと感じている。(佐藤 勇進)

海に漂うゴミを、クジラや海鳥が食べてしまい、餌を摂れなくなって死んでしまう、というニュースや特集記事などから知っていた。しかし、そのような大型の動物だけでなく、小さなサンゴもゴミの影響を受けているということが、この記事で私にとっての新しい気づきとなった。(青木 巴希)

Nature ダイジェスト で詳しく読む

グレートバリアリーフの被害状況が明らかに
  • Nature ダイジェスト Vol. 15 No. 7 | doi : 10.1038/ndigest.2018.180707

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Nature ダイジェストISSN 2424-0702 (online) ISSN 2189-7778 (print)