プランクトンに着目しよう!
プランクトンが私たちの生活にどれくらい関係しているか、考えたことはあるだろうか? 人間は水中で生活していないのだから、プランクトンとは関係ないと思っていたら、それは大きな間違い。非常に小さなこの生き物たちは私たちの生活を支えているのだ。私たちの生活とプランクトンがどのような関係にあるのかを知れば、きっと感謝の気持ちを抱くはずだ。
プランクトンとは水中を漂って生活する小さな生物のことをいい、動物プランクトンを英語でzooplankton、植物プランクトンをphytoplanktonと呼ぶ。珪藻(ケイソウ)類などの単細胞生物もあれば、クラゲの幼生など多細胞生物も含まれる。
プランクトンはエネルギー源!
緑の植物が大気中の二酸化炭素を吸収するとともに酸素を放出し、地球温暖化を妨げていることは多くの人々が知っていることだ。水中で生きているプランクトンの一種である珪藻は、30億年前から熱帯雨林や地上の植物すべてから放出される酸素と同じくらいの酸素を放出しているのだ。
エネルギー源として木を切り倒して薪にしたり、地中の石炭を掘って燃料にすることもあるが、現在世界中でもっとも活用されているエネルギー源は石油だ。水中の珪藻類や渦鞭毛藻(ウズベンモウソウ)などの単細胞生物のプランクトンの死骸が深い海底に沈み、高い圧力と温度の環境のもと、数百万年という長い時間を経て石油となる。30億年前から存在しているプランクトンは、石油の最大の供給源だったのだ。
石油となったプランクトンを燃料として使うほかにも、固まって岩石となったプランクトンも利用している。たとえば英国のセント・ポール大聖堂や、エジプトのピラミッドを造り上げている石灰岩は、有孔虫など炭酸カルシウムの殻をもったプランクトンが海底に沈み、堆積岩として固まったもの。プランクトンは建材としても役立っているのだ。英国のドーバー海峡に見られる美しい白亜の崖は、円石藻(エンセキソウ)が完全に固まっていない状態で地上に隆起したものである。
プランクトンは生命の源!
英国を代表するフィッシュ・フィンガー(白身魚のフライ)、日本の寿司など魚介類は私たちの食生活で豊富に利用されている。これらを支えているのもプランクトンだ。水中生物の食物連鎖では、太陽光と二酸化炭素から光合成によって養分をつくる植物プランクトンが動物プランクトンの餌になる。動物性プランクトンはさらに大型の動物の餌となり、やがて私たちの食料となるのだ。
それぞれの細胞が異なるはたらきをもって生命活動を行う多細胞生物は、進化の過程で単細胞生物から生まれた。生命は単細胞生物から始まり、長い時間をかけてより多くの機能をもった多細胞生物へと進化していき、やがてヒトへとつながっていったのだ。
私たちの呼吸に必要な酸素が大気中にあること、寒い夜を暖かく過ごし、自動車がガソリン燃料で走ること、丈夫な建物の中で文化的な生活を送ることができること、私たちだけでなく多くの生物の食料が確保されること、そしてさまざまな生物種がこの地球に存在することも、すべてはプランクトンのおかげなのだ。
学生との議論
石油は燃料のほか、さまざまな工業製品の原料に利用されるなど、現代社会で貴重な存在だ。石油の起源は現在もよくわかっていないが、プランクトンなどの生物が起源である「有機由来説」が有力だ。
海や湖の底に堆積したプランクトンや動物の死骸は、微生物のはたらきでほとんどが無機物に分解されるが、一部は有機物のまま泥の中に埋もれ、地下深くに埋もれていく。この泥はやがて泥岩という岩石になるが、内部の有機物は互いに結びついて有機物の大きな塊(ケロジェン)になる。
地下深くは温度が高くなっており、ケロジェンは熱によって分解され、二酸化炭素や水が放出されていくが、さらに地下深く、およそ数千キロメートルへ沈むと炭化水素も放出するようになる。この炭化水素が石油の主成分だ。ケロジェンから放出された炭化水素は、岩石の割れ目を移動し、地層中の砂岩や石灰岩の空隙に集まってくる。この集まった炭化水素が液体であれば石油、気体であれば天然ガスである。
ほかに、惑星が形成されるときにはもともと大量の炭化水素が含まれ、この炭化水素が高温・高圧のもとで変質して石油になるという「無機由来説」も存在し、現在研究が進められている。
学生からのコメント
赤潮などのニュースでプランクトンが取り上げられていることを記憶している。それ以外はただの魚の餌にすぎないと思っていた。地球上の生き物はプランクトンなしでは生きられないかもしれない。その価値は映像にあったように、水中に光り輝く生命の秘宝のようだ。(鵜澤 駿)
今回の映像と文章から、私たちの今があるのはプランクトンのおかげだと言っても過言ではないことを理解した。プランクトンについて現在、それほど大きく取り上げられていないけれども、世界の未来のためにもプランクトンの重要性を伝えていかなければならないと思った。(今泉 健)
Nature ダイジェスト で詳しく読む
タラ号の調査で見えてきた、海洋プランクトンの驚異の世界- Nature ダイジェスト Vol. 12 No. 8 | doi : 10.1038/ndigest.2015.150804
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