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エピジェネティクス:ポテンシャルエネルギーランドスケープから情報理論的なエピゲノムの特性を明らかにする
Nature Genetics 49, 5 doi: 10.1038/ng.3811
エピジェネティクスとは、DNA配列に頼ることなく、細胞分裂を通して情報が次世代に伝達されていく生化学的修飾について研究する学問分野である。1940年にWaddingtonが多能性と分化のたとえとして「エピジェネティックランドスケープ(俯瞰図)」という用語を創出したが、メチル化のランドスケープを描き出せるようなきちんとした計算科学的原理はいまだに得られていない。今回は、統計物理学や情報理論の原理を用いて、全ゲノムバイサルファイト塩基配列決定(WGBS)のデータからエピジェネティックエネルギーランドスケープを導き出した。すなわちShannonの(情報)エントロピーを利用して、それをクロマチン構造と関連付けることによって、メチル化が生じる確率性をゲノムワイドに表した。さらに、サンプル特異的なエネルギーランドスケープ間のJensen-Shannon距離を、エピジェネティックな相違の尺度とみなし、エピジェネティックな違いの識別にこれが有効であることを明らかにした。メチル化パターンの維持を情報通信システムの1つとみなし、メチル化通信路という考え方を導入することで、この通信路チャネルの情報特性から高次クロマチン構造が予測可能であることを示した。今回の結果は、エピゲノムの情報理論的解析における基本的理解を深めるものであり、このような知識こそ、エピゲノムが疾患や老化に果たす役割を詳しく調べるための効果的なアプローチにつながっていくものと期待している。