Perspective
精密医療:精密医療実現に向けたシンガポールの国家戦略
Nature Genetics 55, 2 doi: 10.1038/s41588-022-01274-x
精密医療は、疾患の早期発見、診断の精緻化、治療の個別化を通じて、集団および個人に対する医療のあり方を一変させると期待されている。大規模なゲノム・表現型データベースの解析は、精密医療を実現するための必須の要素である。アジアには世界人口の60%が居住しているが、多くのアジア系集団は既存のデータベースでは十分な人数が登録されておらず、新たな発見の機会が失われてしまっている。これは特に、アジア系集団で重要性が高い疾患について言えることである。Singapore National Precision Medicine initiativeは、シンガポール政府が一体となって10年間にわたり取り組む予定の国家戦略であり、ゲノム、生活習慣、健康状態、社会・環境に関するデータを統合し、精密医療のための100万人規模のデータを集積することを目的としている。臨床の現場で精密医療が日常的に行われるようにするためには、技術的な課題だけでなく、社会的、倫理的、法的、制度的な課題も解決されなければならない。精密医療が臨床現場の標準的な流れを変え、集団の健康の改善に結び付くことを示す先駆的な適用事例を明らかにすることは、価値に基づく医療の概念に沿っていることの医療経済評価による実証とともに、この医療システムを導入するにあたって必須の前提条件である。