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発生:保存されたCTCF部位によって順次起こる方向性のあるインスレーションは胚様構造体stembryoにおけるHoxタイマーの基盤である
Nature Genetics 55, 7 doi: 10.1038/s41588-023-01426-7
発生過程でHox遺伝子群は、Hox遺伝子クラスター上の相対的な位置によって定められた時期に活性化され、前後軸に沿った適切な固有構造の形成に寄与している。本論文では、このHoxタイマーの基盤となる機構を理解するために、マウス胚性幹細胞由来のstembryo(多能性幹細胞から作製された胚様構造体)を用いた。Hoxが発現する過程では、Wntシグナル伝達に続いて、Hox遺伝子クラスターの前方部分での転写開始と同時に、転写されたDNA領域上にコヒーシン複合体が豊富に結合する。つまり、この遺伝子クラスター前方部分にコヒーシン複合体が多く存在する非対称分布が生じる。続いてコヒーシン複合体によるクロマチンの押し出しが起こり、それに伴ってより後方側のCTCF部位が次々に一過性のインスレーターとして作用する。この作用によって、より後方に位置する遺伝子の活性化は、隣接するトポロジカルドメイン(TAD)との長距離接触による調節を受けるため、加算的な時間的遅延が生じる。変異型stembryoから、このモデルが裏付けられており、また、進化的に保存され、規則的に配置された遺伝子間CTCF部位の存在が、この時間的機構の正確さとペースを制御していることが明らかになった。