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クロマチン構造:Hox遺伝子群のポリコームによる抑制には空間的なフィードバックが関与するが、ドメイン凝縮や相移行は関与しない
Nature Genetics 56, 3 doi: 10.1038/s41588-024-01661-6
ポリコーム群タンパク質は、発生過程における転写サイレンシングに重要な役割を担っている。一般的に、クロマチンを凝縮するゲノムの折りたたみが、ポリコーム依存的に起こることで、活性化複合体の結合が阻止されるので、折りたたみは転写抑制に直接関与すると提案されている。最近、ポリコームタンパク質の液–液相分離により、標的遺伝子が膜のない区画に相分離し、こうした凝縮と抑制が促進されるとも言われている。我々は、これらのモデルを検討するために、クロマチン構造の光学的再構成(Optical Reconstruction of Chromatin Architecture)により、カノニカルなポリコーム標的であるHoxa遺伝子クラスターを数千の一細胞で追跡した。その結果、複数の細胞タイプにおいて、ポリコームが結合したクロマチンは、一様に抑制されたままでありながら、脱凝縮状態や隣接するクロマチンとの部分的な混合を頻繁に探っていることが分かった。これは、凝縮による抑制モデルや相分離モデルに疑問を投げ掛ける結果である。ポリマーシミュレーションにより、観察されたこれらの動的な三次元構造の柔軟な集団は、「空間的なフィードバック」、つまりエピジェネティックな状態(エピジェネティックな記憶)の伝播に関与する一過性の接触によって説明でき、球状構造の編成を誘導しないことが示された。