量子物理学:国際宇宙ステーションの実験室で観測されたエキゾチック物質
Nature
2020年6月11日
Quantum physics: Exotic matter on the International Space Station
物質の「第5の状態」であるボース・アインシュタイン凝縮が、国際宇宙ステーションで行われた実験で生成されたことを報告する論文が、今週、Nature に掲載される。宇宙の微小重力環境を利用することで、このエキゾチックな物質状態の基礎物理を探究できるようになると考えられる。
ボース・アインシュタイン凝縮は、ボソン(例えば、ルビジウム原子)の気体を絶対零度近くまで冷却すると生じる物質状態だ。この低温状態で、ボソンの集団は、量子特性を有する単一の実体になる。ボース・アインシュタイン凝縮は、量子力学によって支配される微視的世界と古典物理学によって支配される巨視的世界の境界をまたいでいるため、量子力学の基礎的知見をもたらすと考えられているが、重力のあるところでは、ボース・アインシュタイン凝縮を正確に測定できない。
こうした限界を克服するため、Robert Thompsonたちは、国際宇宙ステーション内の宇宙冷却原子実験室の運用を開始して、成果を上げたことを報告している。この論文で記述されているのは、微小重力条件下でボース・アインシュタイン凝縮が生成され、地球上で観測されたボース・アインシュタイン凝縮との特性の違いが測定されたことである。例えば、自由膨張時間(閉じ込めトラップを切った時に原子が浮遊し、測定できる状態にある時間)は、地球上で達成可能なのは数十ミリ秒が通例であるのに対し、1秒を超えていた。観測できる時間が長くなれば、測定精度は高くなる。また、微小重力条件下では、地球上での実験の場合よりも弱い力で原子をトラップできるため、さらに低温に冷却することが可能になり、エキゾチックな量子効果がますます顕著になる。
以上の初期実験の結果は、今後の超低温原子気体の研究が、宇宙空間に設置された実験室によって促進されることを示している。同時掲載のNews & Viewsでは、Maike Lachmannが、「地球周回軌道上(の宇宙船)でのボース・アインシュタイン凝縮の生成に成功したことで、量子気体や原子干渉法の新たな研究機会が明らかになり、さらに野心的なミッションへの道が開かれた」と述べている。
doi: 10.1038/s41586-020-2346-1
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