【生態】欧州の海洋哺乳類の脂肪中のPCB濃度が有害なレベルに達している
Scientific Reports
2016年1月15日
ヨーロッパの海域に生息するスジイルカ、バンドウイルカ、シャチの脂肪に含まれるポリ塩化ビフェニール(PCB)の濃度は、全世界のクジラ類とイルカ類について記録されたPCB濃度の中で最も高い部類であることを明らかにした論文が掲載される。この論文では、PCB濃度が高いために個体数が減り、個体数の回復が妨げられている可能性が高いという見方が示されている。
PCBは、合成化合物の一種で、電気製品の部品に用いられていたが、1979年に米国で禁止され、1981年には英国で禁止された。しかし、地中海に面したヨーロッパ諸国での禁止は段階的に実施され、1987年になって完全に禁止された。クジラ類とイルカ類の脂肪中PCB濃度は、PCBがEUで禁止された当初は減少したが、それ以降、英国のネズミイルカと地中海西部のスジイルカの脂肪中PCB濃度は下げ止まっている。
今回、Paul Jepsonの研究グループは、ヨーロッパの4種の海洋哺乳類(ネズミイルカ、スジイルカ、バンドウイルカ、シャチ)の座礁した個体や生検された個体(合計1,081頭)の脂肪中PCB濃度のメタ解析を行った。その結果、バンドウイルカ、スジイルカ、シャチの平均PCB濃度が、海洋哺乳類にとっての毒性閾値を超えていることが判明した。また、これらの海洋哺乳類にとって、地中海西部と中部、イベリア半島の南西沖、カディス湾、ジブラルタル海峡が世界的なPCBの「ホットスポット(汚染海域)」であることも明らかになった。
PCBの使用と製造が禁止されたにもかかわらず、クジラ類とイルカ類の脂肪中PCB濃度は非常に高いレベルに留まっており、脂肪中PCB濃度が、環境へのPCBの注入とPCBの分解の間の「定常状態」に達したことが原因として考えられる、とJepsonたちは主張している。また、Jepsonたちは、これらの海洋哺乳類種の脂肪中PCB濃度が高いために繁殖が抑制されている可能性が高く、個体数の減少傾向がこのまま続くという考えを示している。
doi:10.1038/srep18573
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