【神経科学】網膜機能の回復過程の再評価
Nature Communications
2016年10月5日
マウスの視覚を回復させる過程では、視細胞全体の統合ではなく、細胞内物質(細胞質内物質)の移動が重要な役割を担っていることが2つの異なる研究で示唆された。この研究成果を報告する論文が掲載される。
いくつかの網膜疾患では、視細胞(光に反応する桿体細胞と錐体細胞)が死滅すると、視力が永久的に失われる。また、視細胞変性の一部の症例では内網膜回路が損傷を受けずに正常に保たれており、この場合に視力を回復させるには網膜の外顆粒層の視細胞を置き換えることが必要となる。過去の研究では、成体マウスの変性進行中の網膜に桿体前駆細胞や錐体前駆細胞を移植すると、視覚機能が回復することが明らかになっている。しかし、視細胞の移植においてドナーの視細胞が宿主の網膜と統合されると一般的に考えられていた。
このほどRachael PearsonたちのグループとMarius Aderたちのグループによる別々の研究で、マウスを使った視細胞移植実験が行われ、その際にドナーの視細胞と宿主の視細胞が異なる色の蛍光タンパク質で遺伝的に標識された。その結果、ドナーの標識が宿主の外顆粒層の視細胞で見つかったが、その後行われた個々の移植細胞を可視化する実験では、移植細胞からドナーの細胞核物質の証拠は見つからず、完全な細胞融合があったことを示す証拠も見つからなかった。両研究グループは、宿主の視細胞が残っている網膜への視細胞の移植が成功した主たる原因はドナーと宿主の視細胞の間で細胞質物質が移動したことだと考えられると結論づけている。
視細胞移植を成功させるためには細胞質物質があれば十分だと考えられるという新知見は、マウスにおいてのみ実証されたものだが、網膜の再生に関する現在の理解を変える可能性がある。
doi:10.1038/ncomms13029
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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