【神経科学】近道をする人工エージェント
Nature
2018年5月10日
哺乳類のナビゲーション能力に近い能力を有するコンピュータープログラムを開発したことを報告する論文が、今週掲載される。この新たなプログラムから、人間の脳の働きに関する知見も得られた。
ニューラルネットワークとは、ヒトの脳をモデルとして作られたコンピューターシステムのことで、数々の妙技(例えば、物体認識)をこなすことができるが、ナビゲーションをうまく行うことはできない。ヒトの脳内でナビゲーション技能の基盤となっているのが、特殊なニューロンの一種であるグリッド(格子)細胞だ。動物が空間中を移動する時、グリッド細胞は規則的なパターンで発火し、これが現在位置の把握に役立つ。Andrea Banino、Dharshan Kumaran、Caswell Barryたちの研究グループは、初めからコンピューターモデルに格子状表現をプログラムしようとしたわけではなかった。ところが、人工エージェントを未知の仮想環境でナビゲーションできるようにトレーニングしたところ、格子状表現が生じたのだ。この人工エージェントは、迷路内のA地点からB地点へ移動するルートを探索する際に、ナビゲーション技能を大いに向上させて、哺乳類が行うように近道ができるようになり、同じ課題に取り組んだ専門家よりも優れた成績を収めた。この人工エージェントの注目すべき能力の基盤となったのが格子状表現であり、その役割は、GPSのような位置信号を出して2つの地点を結ぶ直接経路を計画することに留まらないことが実証された。
グリッド細胞は幅広く研究されてきており、2014年のノーベル医学・生理学賞はグリッド細胞の発見者が受賞したが、この細胞の演算機能を測定するのは難しかった。今回の研究は、グリッド細胞に空間情報がコードされる過程を説明する上で役立ち、グリッド細胞がベクトルによるナビゲーションにおいて極めて重要な役割を果たすとする学説を裏付けている。
doi:10.1038/s41586-018-0102-6
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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