【医科学】がん免疫療法の心臓病治療法への転用
Nature
2019年9月12日
マウスを使った概念実証研究で、がん免疫療法の一種が心臓損傷の一部を治療する方法となる可能性が示唆されたことを報告する論文が、今週掲載される。CAR-T細胞という免疫細胞を用いた標的療法で、心臓損傷マウスモデルの心臓機能を回復させることが実証されたのだ。この方法の臨床応用が可能かどうかを見極めるためには、さらなる研究が必要となる。
心臓繊維症は、心臓繊維芽細胞の過剰によって引き起こされる病状である。心臓が損傷を受けると、心臓繊維芽細胞が活性化され、心臓が硬化し、心機能が低下する。この病状は、ほとんどの形態の心臓病に見られるが、症状を改善する治療法はほとんど存在せず、心臓繊維芽細胞の過剰を直接標的とする治療法は知られていない。
標的療法は、がん治療で、ある程度の成功を収めており、その一例が、がん細胞を認識し破壊する組み換えT細胞を用いる方法だ。今回、Jonathan Epsteinたちの研究グループは、同様の手法が心臓繊維症に有効かどうかを調べた。Epsteinたちは、病変したヒト心臓に由来する活性化した心臓繊維芽細胞に含まれる標的タンパク質候補を特定した上で、
このタンパク質を認識するように改変したCAR-T細胞が、心臓損傷と心臓繊維症のマウスモデルにおいて、心臓繊維症を減少させ、心臓機能を改善できることを実証した。
CAR-T免疫療法は、一部のがんの治療法として、FDAにより承認されている。しかし、ヒトの心臓病への利用を検討する前に、安全性リスクを最小限に抑え、今回突き止められたタンパク質が、この治療法の標的として最適なのかどうかを判断するためのさらなる研究が必要になるとEpsteinたちは結論している。
doi:10.1038/s41586-019-1546-z
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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