感染症:マラリアが乾季に生き延びる仕組み
Nature Medicine
2020年10月27日
マラリアの主な原因となる寄生虫である熱帯熱マラリア原虫は、遺伝子発現を変化させることで、乾季にマラリアを発症させずにヒトの血中に低レベルで持続感染できることを明らかにした論文が、今週、Nature Medicine に掲載される。今回の研究によって、この原虫が観察可能な症状を引き起こさずにヒトの体内にとどまり、蚊の集団が再び登場する雨季にマラリアを再燃させる仕組みが説明できる。
マラリアは、アフリカでの主要な死因の1つであり、2018年には約40万人(大半は5歳以下)が死亡している。大多数の症例は、熱帯熱マラリア原虫(Plasmodium falciparum)を媒介する蚊が多い雨季に発生するが、無症状の感染者は年間を通して見つかる。原虫は、ヒトへの持続感染能があるために、雨季に挟まれた数か月の乾季を乗り越えられるが、観察可能な症状を引き起こさずにヒト宿主にとどまれるのがどのような仕組みなのかはほとんど解明されていない。
Silvia Portugalたちの研究チームは今回、マリの生後3か月から45歳までの患者600人を2017~2018年に追跡調査し、これらの患者の熱帯熱マラリア原虫が乾季の終わりに独特な遺伝子転写パターンを示すことを見いだした。このパターンに伴って感染した赤血球の血管への付着が減少したことで、感染赤血球が脾臓によって除去されて低レベルになった。
Portugalたちは、こうした特徴が、熱帯熱マラリア原虫が免疫系による検出や排除を免れて体内に低レベルの持続感染を維持でき、次の雨季にマラリアの伝播サイクルを再開する原動力に寄与していると結論付けている。環境の変化が熱帯熱マラリア原虫の転写プロフィールにどのような影響を及ぼし、特定の条件下での生存を可能にするのかを解明するには、さらなる研究が必要である。
doi:10.1038/s41591-020-1084-0
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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