神経科学:手書きしている時の脳活動を文章に変換する
Nature
2021年5月13日
麻痺患者が書字動作を企図した時の脳の信号からその内容を解読するという、コンピューターを使用したコミュニケーションの方法が実証されたことを報告する論文が、今週、Nature に掲載される。この方法によって、以前よりもかなり素早くコミュニケーションを取れるようになると考えられる。
脳–コンピューター・インターフェース(BCI)は、体を動かせなくなった人や発話ができなくなった人のコミュニケーション能力を回復させることができる。この分野の研究は、主として、到達運動や把握運動のような粗大運動を復元することがテーマになっていた。しかし、書字やタッチタイピングといった巧緻性の高い運動ができれば、より速いコミュニケーションが可能になるかもしれない。これまでのところ、コンピューターの2Dカーソルを必要な文字の位置に移動させてクリックする入力方式では、1分間に約40文字という入力速度が限界だった。
今回、Francis Willettたちの研究チームは、首から下が麻痺している被験者が、新たに開発された書字BCIを使って、毎分90文字の速さと94.1%の精度でタイプ入力できたことを報告している。Willettたちは、被験者に対して、手が動くようになって罫線入り用紙にペンを当てていると想像して、複数の文の書字を「試みる」よう指示した。BCIは、この試行の際に、機械学習の一種であるニューラルネットワークを用いて、被験者が書字運動を試みた時の神経活動をリアルタイムでテキストに変換した。達成されたタイピング速度は、これまでに報告された他の全てのBCIと比べて2倍以上速く、被験者と同じ年齢層の人々のスマートフォンでの典型的なタイピング速度(毎分115文字)と同程度だった。
今回の概念実証研究で得られた知見は、BCIの新しい手法へ道を開くものであり、書字BCIが麻痺を発症してから何年も後に素早く器用な運動を正確に解読できることを示唆している。しかし、書字BCIの広範な臨床使用を実現するまでには、書字BCIの寿命、安全性、有効性のさらなる実証が必要である。また、Willettたちは、今回の方法が、直接的には観察できない連続的行動に対して、もっと広範に適用できる可能性があるとし、その一例として、話すことができなくなった人の発話の解読を挙げている。しかし、同時掲載のNews & Viewsでは、Pavithra RajeswaranとAmy Orsbornが、この技術が「脳に電極を埋め込むことに伴う費用とリスクを正当化するためには、性能面や有用性の面で非常に大きな利点をもたらす必要がある」と指摘している。
doi:10.1038/s41586-021-03506-2
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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