微生物学:古代の糞便に、ヒトの腸マイクロバイオームに関する情報が豊富に含まれていた
Nature
2021年5月13日
北米で発見された古代の糞便の分析から、過去2000年間にヒトの腸マイクロバイオームに顕著な変化が生じていたことが明らかになったと報告する論文が、今週、Nature に掲載される。この変化は、産業革命以前の食事と現代の食事の違いを反映しており、抗生物質耐性遺伝子の増加を明確に示しており、腸マイクロバイオームの構成が慢性疾患の発症とどのように結び付くのかを説明できるかもしれない。
現在の工業国の集団と非工業国の集団の比較から、工業国の生活習慣が、腸マイクロバイオームの多様性の低下と、肥満や自己免疫疾患などの慢性疾患の発症率の増加と関連していることが明らかになっている。しかし、保存状態の良好なDNAの入手は困難であり、産業革命以前の腸内微生物に関するデータがほとんどないため、腸マイクロバイオームの長期にわたる進化に関しては解明が進んでいない。
このほど、米国南西部とメキシコの岩窟住居遺跡で発見され、本物であることが確認された、約1000~2000年前の保存状態の良好なヒト糞便標本8点について、詳細な遺伝子解析が行われ、新たな知見が得られた。Aleksandar Kosticたちの研究チームは、これらの標本から498の微生物ゲノムを再構築し、そのうち181が古代のヒトの腸に由来することを示す強力な証拠を得た。Kosticたちは、これらのゲノムのうち61が、過去に研究報告のないことも明らかにした。これは、現代のヒト集団に見られる微生物種と異なる種が存在していたことを示している。Kosticたちは、これらのゲノムと現在の工業国と非工業国の集団から採取した試料のゲノムの比較を行い、産業革命以前の古代のゲノムが、非工業国の集団の腸マイクロバイオームにより類似していることを明らかにした。
古代の標本と非工業国の試料には、デンプンの代謝に関連する遺伝子が豊富に含まれており、これは、現代の工業国の集団と比べて、複合糖質の消費量が多かったためと考えられる。また、現在の工業国の集団と非工業国の集団から採集した試料には、古代の標本と比べて、抗生物質耐性遺伝子が豊富に含まれていた。こうした知見は、ヒトマイクロバイオームの進化の歴史を解明する手掛かりであり、健康と疾患における微生物相の関与を解明する際に役立つと考えられる。
doi:10.1038/s41586-021-03532-0
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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