気候:モントリオール議定書は陸域の炭素貯蔵を守ることで気候変動の緩和に役立った
Nature
2021年8月19日
このほど実施されたモデル化研究で、モントリオール議定書が、植物を紫外線損傷から守った結果、炭素貯蔵量の減少と大気中の二酸化炭素濃度の上昇が回避され、気候変動の緩和に役立ったと考えられることが明らかになった。この研究結果を報告する論文が、Natureに掲載される。
オゾン層は、人間と生態系の健全性に害を及ぼす(例えば、炭素を貯蔵する植物を損傷する)紫外線Bを吸収する。オゾン層を破壊する物質、例えば、古い冷蔵庫やエアロゾル類に商業的に使用されていたクロロフルオロカーボン(CFC)などは、1987年のモントリオール議定書(オゾン層を保護するための国際協定)の採択とその後の改正の結果、段階的に使用が禁止された。
今回、Paul Youngたちは、モントリオール議定書が紫外線放射量と気候変動の増加を防止することによって、陸域生物圏とその炭素吸収源としての能力にどのような利益をもたらしたのかを探究した。Youngたちは、オゾン層破壊、気候変動、植物の紫外線損傷、炭素循環を組み込んだモデル化の枠組みを用いた。シミュレーションの結果、モントリオール議定書がなかったなら、21世紀末に植物と土壌に吸収される炭素の量は325~690ギガトン減少する可能性があることが示された。Youngたちは、その結果増加する大気中の二酸化炭素によって、全球平均地上気温は約0.5~1.0℃上昇する可能性があると推定している。
以上の知見は、モントリオール議定書が、強力な温室効果ガスであるオゾン層破壊物質の削減による気候保護という周知の結果に加えて、気候系にとってのコベネフィット(共通便益)があることを示唆している。
doi:10.1038/s41586-021-03737-3
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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