気候変動:温暖化による氷河の後退が生み出す可能性のある新たな生態系
Nature
2023年8月17日
温室効果ガス排出量の多いシナリオの場合、人間活動を原因とする気候変動によって、21世紀末には南極氷床とグリーンランド氷床以外の氷河に覆われた面積が半減する可能性があることを報告する論文が、Natureに掲載される。こうした氷河の後退によって、ネパールやフィンランドの国土面積に匹敵する領域に新たな生態系が誕生するかもしれない。後氷期の生態系の解明は、さらなる氷河の減少を緩和するための継続的な取り組みと並行して行うべき新たな研究の焦点を生み出す。
人為起源の気候変動がもたらす結果の1つが氷河の縮小であり、そのために生態系が急激に変化し、新たに出現する生息地に新たな生態系が形成される。しかし、この変化の全球規模での分析は、これまで行われていなかった。
今回、Jean-Baptiste Bossonらは、全球氷河進化モデルを用いて、南極氷床とグリーンランド氷床以外の氷河(総面積65万平方キロメートル以上)の21世紀の予想軌跡を調べた。この研究では、氷河の輪郭、氷底地形の数値標高モデル、気候データを使用して、個々の氷河がさまざまな気候シナリオの下で、2100年までにどのような応答を示すかが予測された。また、この氷河進化モデルは、氷河が後退した地域に新たに出現する生態系の特徴を予測することもでき、こうした生態系は、海洋生態系、淡水生態系、陸域生態系に分類された。
モデル化の結果、氷河の減少はいずれの気候シナリオの場合でも2040年までは同じようなペースで起こり、それ以降は、温室効果ガスの排出量によって大きく異なると予測された。高排出シナリオ(2075年までに世界の温室効果ガス排出量が2015年の3倍に達する)の場合には、2100年までに氷河の面積が2020年の約半分に減少する可能性がある。一方、低排出シナリオ(2050年までに温室効果ガス排出量が実質ゼロになる)の場合には、氷河の減少は約22%に抑えられる。また、21世紀末には、氷河の後退によってネパールの国土面積(14万9000±5万5000平方キロメートル)からフィンランドの国土面積(33万9000±9万9000平方キロメートル)までに匹敵する土地で、地面が露出すると予測された。このような新たな生息地は、陸域生態系(78%)、海洋生態系(14%)、淡水生態系(8%)に分類され、温暖化した他の地域から逃れてきた低温適応種の避難地となる可能性がある。
Bossonらは、今後は、氷河の後退を抑制することだけでなく、新たに形成される生態系を保護して、その将来を確かなものとすることにも各種資源を投入し、注力していくべきだと主張している。
doi:10.1038/s41586-023-06302-2
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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