生物工学:もっとリアルな義眼を3Dプリンターで作製する
Nature Communications
2024年2月28日
オーダーメイドの義眼のモデル化と3Dプリントをこれまでより簡便に、短時間で行えるようにして、もっとリアルな義眼が得られるようにする方法について報告する論文が、Nature Communicationsに掲載される。著者らは、この方法によって作製された義眼は、従来の方法で作製された義眼と比べて、外観上の違和感が少なくなり、装用感も向上していると述べている。
世界中で約800万人が義眼を装用している。目の再建は、本人が現状を心理的に受け入れることや本人の身体的外見のために重要な意味を持つ場合がある。しかし、現在のオーダーメイドの義眼の製作過程は長い時間を要し、個々の患者のために一つ一つの義眼を作製する高度に熟練した手作業を必要とする。通常、この過程には8時間以上の作業を必要とし、義眼の品質にもばらつきがある。
今回、Johann Reinhardらは、人工眼球を必要とする患者のために義眼を製作するデジタルプロセスを開発し、その検証を行った。Reinhardらは、光干渉断層撮影(OCT)装置を用いて10人の患者の眼窩と健康な眼をスキャンし、眼窩にフィットする義眼を自動的に成形した。そして、カラー画像を使用して、多材料3Dプリンターによりテクスチャー3Dモデルがフルカラーで作製された。1個の義眼をプリントするための所要時間は約90分で、100個の義眼を同時にプリントするための所要時間は約10時間だった。Reinhardらは、もう片方の眼(他眼)の色と構造、特に虹彩の色、サイズ、構造と、強膜(眼球の白い外層)の外観を精密に複製することができた。こうして出来上がった義眼は、義眼技工士による最終調整を必要としたが、Reinhardらは、この方法は従来の製作過程と比べて労力が5分の1となり、結果の再現性が高くなったという評価結果を示している。
Reinhardらは、このデジタルプロセスのさらなる発展によって、これまで義眼の装用に適していないとされてきた小児などの患者にも義眼を製作できるようになる可能性があると指摘している。また、Reinhardらは、今回の手法が非常に複雑な眼窩や特定の眼疾患には適していない可能性があるため、この論文に示された過程は、義眼を必要とする患者の約80%に適用可能だと推定している。現在、これらの義眼の長期性能と影響を従来の方法で作製された義眼と比較して調べる臨床試験が、ムーアフィールズ眼科病院NHS基金トラスト(英国ロンドン)で行われている。
doi:10.1038/s41467-024-45345-5
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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