Research Press Release

神経科学:非侵襲性の脊髄刺激によって腕と手の機能が改善する

Nature Medicine

2024年5月21日

非侵襲性の脊髄刺激装置によって、四肢麻痺のある被験者43人の腕と手の機能が改善したという臨床試験の結果を報告する論文が、Nature Medicineに掲載される。この臨床試験では、60人の被験者が最後まで参加し、この治療が安全で有効なことが示され、主要評価項目を達成した。

脊髄損傷は、神経機能を調節している脳と脊髄の関係性に影響を及ぼし、これが頸椎(首の部分)に起こると、通常は手や腕の機能が損なわれる。損なわれた神経機能の制御に関係するニューロンを含む脊髄分節に対して電気刺激を与えると、それによって神経機能が回復することが明らかになっている。しかしこのような方法では、脊髄の特定領域に電極を埋め込むために、通常は侵襲性の外科的処置に頼ることになる。

今回、Gregoire Courtineらは非侵襲性の装置を作り、ARCEXと名付けた。この装置は表面電極を通して脊髄に電流を流し、これが標的となる脊髄分節中のニューロンを刺激する。この装置が腕や手の機能に及ぼす効果を、リハビリテーション単独の場合と比較して検証するため、Courtineらは、脊髄損傷で四肢麻痺になった患者65人を対象とする多施設非盲検試験を行った(この研究では、脊髄損傷後12カ月以上の患者だけを採用した)。この臨床試験の被験者は全員、医療機関内での標準化リハビリテーションプログラムに2カ月間参加し、その後さらに2カ月間、同じリハビリテーションプログラムへの参加に加えてARCEX治療を受けた。ARCEX治療に関連する目立った安全性の問題は認められず、臨床試験に最後まで参加した被験者60人のうち43人に、強度や機能の面で改善が見られた。二次解析によって、指先でつまむ力、手の動き、強度、感覚能力の向上が明らかになり、自己報告による生活の質の改善も見られた。

Courtineらは、これらの知見はARCEX治療が安全で有効なことを示していると述べ、ARCEX治療は慢性の頚髄損傷を抱えて生活する患者の手や腕の機能の神経学的回復を促す新たな治療法になる可能性があると示唆している。

doi:10.1038/s41591-024-02940-9

「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。

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