神経科学:フェンタニル嗜癖の神経機構
Nature
2024年5月23日
フェンタニルの嗜癖作用は、脳内の2つの異なる神経経路によって制御できる可能性があることを報告する論文が、Natureに掲載される。この知識は、オピオイドへの嗜癖を減らす治療法の開発に役立つ可能性がある。
フェンタニルは、強力な鎮痛剤であり、多くの国々、特に米国で、オピオイドに関する公衆衛生上の懸念の中心に位置付けられている。オピオイドの場合、ドーパミン放出による多幸感(正の強化)と重度の離脱症状(負の強化)が組み合わさって、使用者の約4分の1がオピオイド嗜癖を起こす。脳内のμオピオイド受容体がこの行動に関連していることが示唆されているが、これに関係する正確な神経回路の全容は解明されていない。
今回、Christian Lüscherらは、マウスの脳におけるフェンタニルの作用を調べた。Lüscherらは、正の強化や負の強化が起こっている時に活性化する脳領域を特定するため、マウスにフェンタニルを投与して離脱を誘発する実験を行った。フェンタニルは、ドーパミンが放出される脳領域である腹側被蓋野の活性を誘導した。そして、腹側被蓋野のμオピオイド受容体の活性を抑制すると、ドーパミン放出が減少し、マウスで観察される正の強化の徴候が減少した。しかし、μオピオイド受容体を阻害しても離脱の効果は変化しなかった。このことは、別の経路が負の強化の仲介に関与している可能性を示唆している。Lüscherらは、μオピオイド受容体を発現するニューロンが別の脳領域(扁桃体中心核)にも存在し、このニューロンの活性が離脱時に増強することを明らかにした。このμオピオイド受容体を不活性化すると、マウスの離脱症状は消失した。この結果は、この受容体がフェンタニルの負の強化を仲介する役割を果たしていることを示唆している。
Lüscherらは、これらの結果は、フェンタニル嗜癖を抑制して、回復を支援するための介入法と治療薬の開発に寄与する可能性があるという見解を示している。同時掲載のNews & ViewsでMarkus HeiligとMichele Petrellaは、この知見は「オピオイドが嗜癖を促進する仕組みに関する科学者の理解を前進させる点で貴重だ」とする見解を示している。
doi:10.1038/s41586-024-07440-x
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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