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遺伝子発現パターンが変わると浮気癖が直る?――ハタネズミの場合
Nature Reviews Genetics
2004年8月1日
ハタネズミは、種類によって社会的結びつきのレベルが異なっているため、社会的行動を研究する上で理想的な生物といえる。例えば、雄のプレーリーハタネズミは配偶相手に忠実で、配偶相手との密接な肉体的接触を求め、子供の世話をする。これに対して、プレーリーハタネズミの近縁種であるアメリカハタネズミは乱婚的で、孤立して生活する傾向が強く、子供の世話をほとんどしない。
バソプレッシンとドーパミンは、動物同士の結びつきの度合いを調節する重要な化学シグナルだと考えられている。事実、脳内報酬系の一部である前脳腹側領域におけるバソプレッシン1a受容体(V1aR)の発現量は、雄のプレーリーハタネズミの方が雄のアメリカハタネズミよりも高い。Lim et al.の研究では、ウイルスベクターを使った遺伝子導入を利用して、雄のアメリカハタネズミの前脳腹側領域におけるV1aR遺伝子の発現量を増やしたところ、対照と比較して、交尾後も交尾相手と一緒にいる時間が長くなり、他の雌を拒絶するようになった。さらにLimたちは、このような社会的行動にドーパミンが重要な役割を果たすことを明らかにしている。つまり、アメリカハタネズミを使った実験でドーパミン受容体の発現を阻害したところ、従来の研究でも実証されていたように、V1aRの過剰発現の効果が相殺されたのだった。
以上のような結果となった原因として、Lim et al.は、報酬経路と認識経路が同時に活性化し、それによってV1aRとドーパミン受容体が前脳腹側領域で並列的に発現したことを挙げている。これによって交尾の報酬的性質と交尾相手の雌のハタネズミに特有の身体特性(匂い)とが関連付けられ、配偶相手の選り好みに結びつくのだとLimたちは主張している。
この2種類のハタネズミの場合には、関連する分子回路と神経回路が類似しており、この回路における1つの受容体の発現量を変化させることに明白な効果がある。このことは、1つの遺伝子に選択的に作用して、社会的行動に著しい変化を誘発するという注目すべき進化の力を示している。
このような社会的行動の多様性に関しては、生物学的経路の別の遺伝子や、その遺伝子と社会的要因や環境的要因との相互作用も原因となっている可能性が高い。とはいえ、今後、V1aRなどの重要な調節因子は、複雑な社会的行動の一因となっている脳内分子機構に関して重要な知見を提供していくと考えられ、人間の社会的行動障害の一部解明にも役立つ可能性が生まれている。
doi:10.1038/fake486
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