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Nature Reviews Cancer

2004年6月1日

転写因子のFOXOファミリーメンバーが細胞核にあると、増殖を妨げる遺伝子の発現を活性化させ、アポトーシスを助長する。このため、FOXOが核から締め出されると、発癌につながる可能性がある。Huらは、この局在化を調節する機序を新たに発見し、I Bキナーゼ (IKK )が、FOXO3Aの核への接近、ひいては腫瘍形成を調節していることを報告している。

増殖因子で細胞を刺激すると、シグナル伝達経路が活性化し、キナーゼであるAKTのリン酸化(AKT-p)が起こって、最終的には転写因子FOXO1, FOXO3AおよびFOXO4がリン酸化する。その結果、上記因子が細胞質に局在し、細胞増殖が起こる。しかし、増殖または生存のシグナル伝達が起こらなければ、AKTはリン酸化せず不活性なままであるため、FOXO因子が核内にとどまって細胞分裂が阻害され、腫瘍も抑制される。

Huらは、131原発性乳癌の試料を用いて、AKT-pとFOXO3A局在化との関係を検討した。予想通り、FOXO3Aは主としてAKT-pが多い腫瘍細胞の細胞質およびAKT-p陰性細胞の細胞核に存在していた。しかも、驚くべきことに、AKT- p がなくてもFOXO3Aが細胞質にとどまっている腫瘍試料がかなりの数に上ることがわかったのである。ということは、癌細胞がFOXO3aを核から締め出す機序がほかにあるのだろうか。

転写因子の核−細胞質局在化を調節するもうひとつの癌関連キナーゼに、NF- B活性をコントロールするIKK がある。Huらが腫瘍試料のIKK 値を調べたところ、核内のFOXO3A値はIKK と逆に相関していることがわかった。IKK の欠如は乳癌患者の生存率とも相関していた。そうすると、IKK もまた、FOXO因子を核外にとどめることによって腫瘍形成に寄与しうるのだろうか。

Huらは免疫沈降法により、IKK は、AKTとは無関係に、FOXO3Aと物理的に相互作用してこれをリン酸化することを示した。さらに、IKK によってリン酸化されたFOXO3Aは、ユビキチン依存性プロテアソーム経路を経て分解される。Huらは、構成的にIKK を発現する細胞を作製し、これがFOXO3A活性の消失につながることを明らかにした。FOXO3Aはこの細胞の核にはもはや存在せず、その標的遺伝子の転写を活性化することもなかった。このために細胞周期が進行し、細胞は増殖した。

構成的なIKK 活性は、in vivoで腫瘍形成を引き起こすのに十分なのだろうか。ヌードマウスの乳腺脂肪体にIKK 安定導入細胞を注入すると、その部位に腫瘍が形成された。対照細胞には形成されていない。しかし、この細胞にFOXO3Aを再度発現させると、in vivoで腫瘍形成が抑制された。したがって、IKK を介した腫瘍形成機序は、FOXO3Aの阻害に基づく可能性が高い。

Huらは、腫瘍細胞の細胞質にあるFOXO3Aと乳癌患者の生存率との間には逆の相関関係があることから、この転写因子は治療的介入の新しいツールであると同時に有用な予後因子であるとも考えられるという結論に至っている。

doi:10.1038/nrc1374

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