Research Highlights

アポトーシスを抑制して乳腺内腔を占領する癌細胞

Nature Reviews Cancer

2002年11月1日

中空の腺状構造は、乳腺などの高次構造をもつ多くの組織と関連がある。この構造の 内側の空間(内腔)は、アポトーシスの働きによってつくられる。今回、最近 のCell誌に掲載された論文の著者、Debnathらが、悪性形質転換されな いMCF-10A乳腺上皮細胞の三次元細胞培養モデルを用い、アポトーシスが内腔空間の 維持に重要なことと、腫瘍細胞が内腔への侵入に成功するにはアポトーシスを抑制し なければならないことを示した。Debnathらが用いた三次元細胞培養モデル系では、 生体内の乳腺上皮細胞の特徴の多くをありのままに観察することができる Debnathらは、乳腺腺房の形態形成過程における細胞死を研究していたとき、細胞培 養を始めて5〜8日後に、あまり極性化されていない一群の細胞の周囲に極性化の進ん だ細胞からなる外層を観察した。この構造の内部、すなわち、内腔空間になると推定 される部分にある細胞は、それから6〜8日後に、内腔が出現する直前に細胞死を起こ した。この細胞死は、AKT経路から生存促進信号が送られないことと関係があった。

胞死は、カスパーゼ依存性の機構によって進行した。

ポトーシスが起こらなくても内腔が形成されるかどうかを調べるため、Debnathら は、アポトーシスを抑制するBCL2およびBCL-XLタンパク質を過剰に発現 させてみた。BCL2とBCL-XLの過剰発現によって内腔形成は遅れたのだが、 細胞群は(たぶん自食作用によって)結局は取り除かれ、内腔空間が形成された。逆 に、ちょっと意外だったようだが、サイクリンD1またはヒトパピローマウイルス (HPV)16 E7を過剰に発現させて細胞増殖を増加させた場合も、内腔空間は埋められ なかった。細胞の破片や断片化された核が大量に見いだされ、細胞増殖が増えたのに なぜ内腔空間が埋まらなかったかについての手がかりが得られた。細胞死が増加して いたのだ。

こまでの結果から、初期の上皮腫瘍で起こるように、ある種の癌遺伝子はどのよう にして細胞を内腔空間に侵入させるのかという疑問が当然でてくる。この問題に取り 組むため、DebnathらはサイクリンD1とBCL-XL、またはHPV 16 E7とBCL2 を安定に発現するMCF-10A細胞を培養した。そして、増殖促進遺伝子とアポトーシス 抑制遺伝子の両方が同時に発現している場合に乳腺腺房の内腔空間が細胞に占領され ることを見いだした。

たがって、細胞増殖の増加と細胞死の減少が組み合わさった場合にだけ内腔が埋め られるようだ。言い換えると、数多くの癌遺伝子によって誘導される「単独の」生物 学的傷害は、上皮細胞構造の破壊にほとんど影響をおよぼさない。注目すべきことに、 活性化されたERBB2は、この2つの生物学的活性を両方とも誘導し、このモデル系で内 腔空間を細胞で埋めることができる。活性化されたERBB2はまた、多くの転移性乳癌 で過剰に発現されている。

doi:10.1038/nrc939

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