ウイルス学:スパイクのdeep mutational scanning法はSARS-CoV-2クレードの成功を予測するのに役立つ
Nature 631, 8021 doi: 10.1038/s41586-024-07636-1
重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)変異株は、スパイクタンパク質に変異を獲得し、こうした変異は免疫回避を促進したり、ACE2受容体結合や細胞への侵入など、ウイルス適応度に関与する他の特性に影響を及ぼしたりする。変異がこれらのスパイクの表現型に影響を及ぼす仕組みを知ることで、このウイルスの現在の進化および今後起こるであろう進化についての手掛かりを得ることができる。本研究で我々は、シュードウイルスのDMS(deep mutational scanning)法を用いて、XBB.1.5やBA.2の完全長スパイクの9000以上の変異が、ACE2への結合や細胞への侵入、ヒト血清からの回避にどのような影響を及ぼすのかを測定した。その結果、受容体結合ドメイン(RBD)外の変異が、SARS-CoV-2の進化においてACE2結合性に意味のある影響を及ぼすことが明らかになった。また、XBB.1.5のスパイクへの変異が、最近SARS-CoV-2に感染した人の血清による中和にどのような影響を与えるかも評価した。血清による中和を最も強力に回避した変異は、RBD内の357、420、440、456、473の位置であったが、これらの変異の抗原性への影響は個人間で異なっていた。RBD外にも強力な回避を示す変異が見つかったが、それらの多くはACE2結合性を低下させるため、RBDのコンホメーションを変化させることで作用すると示唆される。特に、ヒトSARS-CoV-2クレードの増殖率は、スパイク表現型に対する変異の測定された影響によってかなりの部分が説明でき、我々のデータはウイルス進化のより良い予測を可能にするかもしれないことが示唆された。