Nature ハイライト
Cover Story:雑音をはねのける:誤りの緩和が古典的コンピューターでは手が届かない物理を調べる力を量子プロセッサーに与える
Nature 618, 7965
表紙は、誤り緩和によってピントが合っていく量子回路を表している。量子コンピューターは、特定の問題を古典的コンピューターよりかなり速く解ける見込みがある。しかし、環境雑音によって量子コンピューターに誤りが生じることは避けられず、そうした誤りを、誤りが蓄積するより速く訂正することは、既存の量子コンピューターの能力を超えている。それにもかかわらず、今回A Kandalaたちは、誤りを訂正するのではなく緩和することによってでも、量子コンピューターが古典的コンピューターを凌駕できることを示している。彼らは、IBMの、チップ上の127キュービットからなる雑音を伴う量子プロセッサーを用いて、大きなエンタングル状態を生成し、モデル量子物質の電子スピンをシミュレートして、その磁化を予測した。さらに、古典近似では、基本的に古典的コンピューターが十分なメモリーを持たないため、こうした結果を再現できないことも示している。著者たちは、誤り緩和によって、既存の量子コンピューターや近い将来の量子コンピューターが、古典的コンピューターでは手が届かない問題を解くのに役立つほど十分に優れたものになる可能性があると示唆している。
2023年6月15日号の Nature ハイライト
天文学:宇宙暗黒時代の非常に暗い銀河の分光学的検出
天文学:パルサー連星の強磁場環境
惑星地球化学:エンセラダスの海洋に予想されるリンの存在
極低温気体:熱平衡に至る前の初期熱化を観測する
物性物理学:フラストレートした物質の意外なトポロジカル秩序
生物地球化学:オキアミの体サイズによる粒状有機炭素フラックスの駆動
地球科学:冥王代から古太古代の動かない蓋のテクトニクス
生態学:群集の集合様式は移入率で決まる
進化学:正中鰭と対鰭を結び付ける
古代DNA:アフリカ北西部の多面的な新石器化
遺伝学:シロイヌナズナ属のセントロメアが進化する仕組み
神経科学:脳の機能は脳の形で決まる?
社会科学:現金給付プログラムは低・中所得国の死亡率低下に有効である
微生物学:細菌外膜のグリカン取り込み装置の構造と機構
免疫学:広範なインフルエンザウイルスに有効な抗体
がん:腫瘍内転写不均一性の包括的解析
腫瘍免疫学:α2アドレナリン受容体から免疫を介した腫瘍拒絶
細胞生物学:細胞の運動に関わり、病気の原因にもなる繊毛を形成する軸糸の構造