Cover Story:脳の配線図:成体のショウジョウバエの脳の完全なニューロン接続マップ
Nature 634, 8032
脳のニューロンはシナプスを介して接続しており、社会的相互作用やナビゲーションといった複雑な行動をつかさどる高度な回路を形成している。しかし、こうした回路がどのように機能しているかを理解するためには、全てのシナプス接続の地図である「コネクトーム」が必要となる。今週号では、FlyWireコンソーシアムが一連の論文で、成体の雌のキイロショウジョウバエ(Drosophila melanogaster)の脳の完全なコネクトームを発表し、その分析を行うことで、約14万個のニューロンと5000万以上のシナプス接続を明らかにしている。M MurthyとS Seungが率いるFlyWireコンソーシアムはまず、ショウジョウバエ脳の完全な配線図を、コネクトームのネットワーク分析の結果と共に提示している。また、G JefferisとD Bockたちは中央脳のニューロンの大半について、SeungとMurthyたちは視葉についてそれぞれアノテーションを行い、Murthyたちはさらに別の論文で、コネクトームの構造に関する統計分析を行っている。一方、S KimとM Wernetたちは、ハエの視覚系に着目して、ナビゲーションの基盤となっている回路に関する知見を得ている。Seungは、接続データを用いて新たな神経回路を発見するとともに、視覚機能におけるその役割を予測しており、S Bidayeたちは、停止行動の神経回路について説明している。さらにP Shiuたちは、このコネクトームを全体として計算モデルに変換し、ハエの脳の「デジタルツイン」様のものを作製している。J Pillowたちはコネクトームのサブ回路を調べ、データから「エフェクトーム」を見つけるための道筋を定義している。
2024年10月3日号の Nature ハイライト
惑星科学:火星の消失する誘導磁気圏
宇宙物理学:アルテミスIミッションにおける宇宙放射線の測定
大気物理学:ガンマ線グローと地球ガンマ線フラッシュのミッシングリンク
計算機科学:大規模になるほど信頼性は低下する
光物理学:モアレ系を三次元に拡張する
量子物理学:真にCMOS適合型の超伝導キュービットの製造
ナノスケール材料:空間的閉じ込めによる単層カーボンの合成
高分子:フロンタル重合によるパターン形成の制御
地形学:河川の流路変更の法則
進化遺伝学:ハイギョ類ゲノムで探る四肢類の進化
医学研究:ダウン症候群の胎児造血系を紐解く
植物科学:受精後の母性遺伝子の転写を父性遺伝子が妨げる
微生物学:DNAの逆位はゲノムのコーディング容量を増やす