考古学:古代DNA研究がもたらした西ヨーロッパ新石器時代の共同体に関する新知見
Nature
フランスのギュルジーにある「les Noisats」遺跡で発見された約7000年前までのものとされる古代人の遺骨から抽出されたDNAの解析が行われた。この新たな解析結果は、西ヨーロッパ新石器時代の共同体の社会的組織に関する我々の理解を前進させる可能性がある。このことを報告する論文が、Natureに掲載される。今回の知見は、一部の女性が、当初所属していた共同体を離れて、別の共同体に加わったことを示唆しており、共同体の成員の安定した健康状態と支えになってくれる社会的ネットワークの存在を示す証拠となっている。この研究で古代DNAから再構築された系図は、これまでで最大のものとなった。
先史時代の社会に関して、親族慣行、居住パターンや移住パターン、生物学的つながりを評価することは困難であり、ヨーロッパ新石器時代の集団における生物学的つながりに関するデータは、非常に少ない。これまでにヨーロッパ新石器時代の集団の社会や親族についてなされた推論の大部分は、考古学データに基づいたものであり、同じ場所に埋葬された人々は遺伝的に関係があったかや、同じ出身地だったかといった点を判断することは難しかった。それが今では、古代DNA関連技術の最適化と新しい解析方法の開発によって、ゲノム規模のデータを使って古代人の遺伝的関係を正確に再構築できるようになり、また、考古学データを併用することで、同じ場所に埋葬された人々の社会的関係を推測する上で役立てられるようになった。
今回、Maïté Rivollatらは、ギュルジーに埋葬されていた約100体の遺骨(紀元前4850~4500年頃のものと年代決定された)から得た古代のゲノム規模データと、考古学データを併用した。埋葬されていた人々の小規模な人口構成から、これらの人々の社会構造、生活条件、居住状態に関する精細な情報が明らかになった。一夫一婦制の生殖パートナー(配偶者)がいたことと、共同体が男系継承されていたことの証拠が見つかった。また、異父きょうだいや異母きょうだいがいないことや、成人した同父母のきょうだいの数が多いことが判明し、安定した健康状態と支えになってくれる社会的ネットワークの存在が示唆された。こうしたことが、出生率を高め、死亡率を抑える方向に働いたと考えられる。さらに、この共同体は、ギュルジーの地に数十年間しか存在していなかったことや、7世代にわたる2つの主要な家系による遺伝的つながりがあったことも分かった。
今回の知見は、多様性があったと考えられるヨーロッパ新石器時代の社会の社会的組織に関する大局的な見方を今後の考古学的研究で獲得するための基盤になるかもしれない。
doi: 10.1038/s41586-023-06350-8
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