環境:温暖化の状況下でサンゴ礁を支える陸と海での総合的な保全活動
Nature
陸と海で人間の活動による影響を同時に緩和する活動が、米国ハワイで発生した前例のない大規模な海洋熱波の際のサンゴの減少を抑制し、熱波後のサンゴ礁の存続を支えたことを報告する論文が、Natureに掲載される。この知見は、サンゴ礁を保護するための総合的な管理戦略の持つ可能性を明らかにしている。
サンゴ礁生態系は、陸と海での人間活動の影響を頻繁に受けている。陸域の撹乱には各種排水による汚染、海域の撹乱には魚の乱獲が含まれる。サンゴは、特に長期にわたる海洋温度の上昇(海洋熱波)の影響を受けている。海洋熱波は、サンゴの白化や死滅を引き起こすことがある。
今回、Jamison GoveとGareth Williamsらは、陸域と海域での人間活動と環境が生み出した影響が2003~2019年のハワイ周辺のサンゴ礁の変化にどの程度寄与したのかを評価した。この期間中の2015年には、ハワイ諸島で観測史上最も深刻な海洋熱波が発生し、海洋温度が平年より2.2℃高くなった。分析対象となった人間活動の影響は、都市部の表流水、各種排水による汚染、漁具の使用制限などだった。この研究期間中のサンゴ礁の被度は、地域によって、増加、減少、安定していた。陸域と海域の人間活動による影響が軽減されたサンゴ礁では、海洋熱波の発生前にサンゴの被度が上昇し、発生時のサンゴの減少が抑制された。さらに、この海洋熱波の発生から4年後の時点で、草食魚が多く生息し、陸域の人間活動の影響をあまり受けないサンゴ礁の方が、魚の生息数が少なく、陸域の人間活動の影響を多く受けるサンゴ礁と比較して、造礁サンゴ(サンゴ礁の成長に必須のサンゴ種)の被度が高かった。
今回の研究では、陸域と海域の人間活動の影響を減らすと、撹乱の4年後に造礁サンゴの被度が高いサンゴ礁が形成される確率が3~6倍になることを示唆するシナリオがモデル化された。この論文の著者は、陸域と海域の管理を総合的に実施することで、気候が変化する中でサンゴ礁が存続するチャンスが高まる可能性があるという考えを示している。
doi: 10.1038/s41586-023-06394-w
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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