遺伝学:ヒトY染色体の塩基配列解読
Nature
ヒトY染色体のゲノムアセンブリとゲノム解析結果を明らかにした2編の論文が、今週、Natureに掲載される。Y染色体は、ゲノム塩基配列の完全解読が実現していない唯一のヒト染色体だった。今回の知見は、現行のY染色体参照配列の数多くの欠落部分を埋めており、さまざまな集団におけるY染色体の進化と多様性に関する洞察をもたらしている。
ヒトY染色体は、構造が複雑なため、塩基配列解読やアセンブリが難しく、現行のヒト参照ゲノムアセンブリでは、Y染色体の半分以上が欠落している。そのため、Y染色体の十分な解明がなされておらず、その組成、複雑性、集団間の差異に関する我々の知識は限られている。
Adam Phillippyとテロメア・ツー・テロメアコンソーシアムは今回、6246万29塩基対のヒトY染色体の完全塩基配列を示した。このアセンブリでは、現行のヒト参照ゲノムアセンブリにおけるY染色体に関する数々の誤りが修正されており、現行の参照配列に3000万塩基対以上の新たな塩基配列が追加され、一定数の遺伝子ファミリーの構造が完全に解明され、タンパク質をコードする41の遺伝子が新たに特定された。また、過去のマイクロバイオーム研究によって、その時点で知られていなかったヒトY染色体の塩基配列を細菌の塩基配列とした仮説が提示されたが、今回の結果は、この仮説の誤りも修正している。
一方、Charles Leeらは、世界の21のヒト集団を代表する43人の男性のY染色体を基にして、ヒトY染色体ゲノムのアセンブリを行った。このアセンブリからは、18万3000年にわたる人類の進化におけるY染色体の遺伝的差異を詳細に知ることができる。ヒトY染色体のゲノムアセンブリは、未知のDNA塩基配列、保存された領域の特徴、Y染色体の複雑な構造に寄与した分子機構に関する知見をもたらした。
doi: 10.1038/s41586-023-06425-6
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