生態学:海洋熱波が底魚のバイオマスに及ぼす影響の評価
Nature
海洋熱波が底魚のバイオマスに及ぼす影響は限定的であることを報告する論文が、今週、Natureに掲載される。短期間の極端な高温現象が発生した後にバイオマスが減少した事例が数例あったのは確かだが、それらは例外的な事例だった。そのため、このようにバイオマスが変動した原因に関して数々の疑問が生じている。
極端な気温現象は、生態系の質と組成に大きな影響を及ぼす場合があり、これまで気候変動に関連するものと考えられてきた。海洋熱波は、サンゴの白化、種の移動、影響を受ける生息地の個体数の変化など、一定の間接的影響を伴う。しかし、海洋熱波が一般的に生態系にどの程度の悪影響を及ぼすかや、海洋熱波を海洋系の自然変動やサンプリング変動と区別できるかについては、まだ解明されていない。
今回、Alexa Fredstonらは、1993~2019年に海底で発生した248回の海洋熱波が、北半球のさまざまな気候帯(亜熱帯から北極まで)における大陸棚生態系の海洋魚類に及ぼす影響を分析した。今回の研究において、海洋熱波は、海底水温が当該地域の季節性閾値(平均海底水温偏差の95パーセンタイル)を超える日が5日以上続いた場合と定義された。また、今回の研究では、北西大西洋、北東大西洋、北東太平洋の45度の緯度にわたって行われた計18回の長期の科学的底引き網調査で、8万2000回以上の水揚げが実施され、採集された1769の底生魚分類群の魚類について、2200万回以上の観察が行われた。
分析の結果、一部の底魚種のバイオマスは海洋熱波の後に有意に減少したが、全体的な傾向としては、魚類バイオマスに対する影響は非常に小さく、緯度、水深、個別の種の形質などの要因を調整しても、バイオマスの変化を自然変動やサンプリング変動と区別できないことが明らかになった。また、海洋熱波と熱帯化(暖地系種の増加)や脱北方化(寒地系種の減少)との間に有意な相関は認められなかった。これらの結果は、海洋熱波がもたらす影響は地域差が大きく、単一の魚類種が影響を受ける場合はあるが、一般的にバイオマスが減少することはないことを示唆している。
今回の結果は、全球の気温が上昇し続ける中で海洋生態系を保護するために、海洋熱波が一部の魚類種に特に大きな影響を及ぼすと考えられる原因を解明する必要性を明確に示している。
doi: 10.1038/s41586-023-06449-y
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