素粒子物理学:反物質は普通の物質と同じように落下する
Nature
反水素原子の自由落下を直接観測する実験によって、反物質が通常の物質と同じように地球の重力の効果を受けることが明らかになったと報告する論文が、今週のNatureに掲載される。
1915年に発表されたアルバート・アインシュタインの一般相対性理論は、重力の効果について記述した理論で、その後、数多くの実験的検証によって確認されてきた。一般相対性理論の構築原理の1つである「弱い等価原理」によれば、全ての物体は、質量や内部構造に関係なく、同じように重力に反応して自由落下する。物質も反物質も、地球の重力に反応して同じように振る舞うはずだというのが一般的な見解であるが、注意深く制御された実験条件を作り出すことが難しいため、直接観測が行われていない。
欧州原子核研究機構(CERN)の共同研究グループALPHAは2018年に、重力の効果を研究するために設計された反水素原子の磁場トラップを持つALPHA-g装置を構築した。この装置内で磁気的にトラップされた反水素原子を解放して、その後の動きを追跡すれば、重力の影響を推測することができる。反水素原子が、トラップの上端よりも下端から多く流出していれば、反物質の原子の振る舞いが、通常の物質と同じである可能性が高いということになる。今回、Jeffrey Hangstらは、この実験を行って、ALPHA-g装置内で磁気的にトラップされていた反水素原子を解放したところ、反水素原子がトラップの下端から落下する傾向を示したことを観測した。
以上の知見は、反物質が通常の物質と同じように重力の効果を受けるという一般的な見解が正しいことを裏付けており、一般相対性理論の予測とも一致した。Hangstらは、今回の研究は弱い等価原理の新たな検証に道を開くものであり、これにより地球の重力場の中で反物質がどのように運動するかについて解明が進むと結論付けている。
doi: 10.1038/s41586-023-06527-1
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