Research press release

医学:深層学習が手術中の迅速な腫瘍の分類を支援する

Nature

高速塩基配列解読技術と深層学習AIモデルを組み合わせて中枢神経系(CNS)腫瘍を迅速に分類する方法により、90分未満で分子診断を行える可能性のあることを明らかにした論文が、Natureに掲載される。この知見は、手術中に腫瘍の分子診断結果を得て手術に関する意思決定に役立てることの実現可能性を示している。

CNS腫瘍の一次治療では、腫瘍の外科的切除が行われる。その際には、神経学的損傷やその他の合併症のリスクを最小限に抑えることと腫瘍組織を最大限に切除することを両立させるために、慎重な考慮が必要とされる。現在の標準的な治療は、手術前の画像解析と手術中の組織学的解析に依存しているが、必ずしも決定的な方法ではなく、解析結果が誤っている場合もある。DNAの塩基配列を解読してメチル化プロファイルを明らかにすれば、腫瘍の起源と予後に関する情報を得られるかもしれないが、解析結果を得るまでに数日を要するのが通例だ。

今回、Jeroen de Ridderらは、DNAメチル化プロファイルを手術中に十分に迅速に取得して、診断を下せるようにするために、ナノポア塩基配列解読法という技術を用いた。この方法は、他の方法よりも短時間で塩基配列解読ができるが、従来の塩基配列解読技術と比べて、生成されるデータに含まれる遺伝的部位が少ない。de Ridderらは、このような中身の薄いデータに基づいてCNS腫瘍を分子レベルで分類するために、「スタージョン(Sturgeon)」というニューラルネットワークツールを開発した。de Ridderらは、シミュレーションデータを用いてスタージョンを訓練し、その有効性を確認した後、CNS腫瘍検体から得られたデータを使ってスタージョンを検証した。スタージョンは、20~40分間の塩基配列解読に相当するデータに基づいて、50検体中45検体を正しく分類した。de Ridderらは、25回の手術でスタージョンの性能を検証し、検体を検査に出してから検査結果が戻って来て診断を下せるようになるまでの時間が90分未満だった場合に、スタージョンが腫瘍の72%(25検体中18検体)を正しく分類できたことを明らかにした。

以上の知見は、高速塩基配列解読に基づき、深層学習を利用した診断を手術中に行うことが、神経外科的な意思決定に役立ち、患者の予後を改善できる可能性があることを実証している。

doi: 10.1038/s41586-023-06615-2

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