神経科学:マウスの脳全体の詳細なマップ
Nature
マウスの脳全体で細胞タイプの詳細な特性解析と分類を行う研究としては最も包括的で詳細なBRAINイニシアチブ細胞センサスネットワーク(BICCN)の研究成果を示した一連の論文が、今週、Natureに掲載される。これらの知見は、脳の構造と編成と共に、個々の脳細胞と神経回路の機能を洞察する機会をもたらしている。BICCNの知見は、哺乳類の脳の発達と進化の研究を続けるためのツールとなり、さまざまな細胞タイプの組織化が神経疾患の要因となる過程を模索する研究にも役立つ。
哺乳類の脳が行う複雑で多様な活動は、さまざまな機能特性を持つ多数の細胞タイプで構成された高度に特化した神経回路によって制御されている。脳の働きを理解するには、脳内の細胞タイプと回路の構成と機能に関する詳細な知識が必要となる。これまでの脳を探索する試みは、特定の脳領域に限られていたが、今回BICCNが新たに発表する9編の論文(と関連研究)には、マウスの脳全体を詳細に調べた結果が示されている。
今回、Zizhen Yao、Hongkui Zengらは、約400万個の細胞の単一細胞RNA塩基配列解読データと約430万個の細胞の空間トランスクリプトームデータを合わせて高解像度マップが作成した過程について記述している。Yao、Zengらは、34クラス、338サブクラス、1201スーパータイプ、5322クラスターの4つの階層で構成される分類レベルによるアトラスを示している。その結果、それぞれの脳領域に独特な細胞タイプの組織化の特徴が明らかになり、背側部は細胞タイプが少ないが、多様性が高く、腹側部は互いに密接に関連するニューロンタイプが数多く存在していることが判明した。そして、転写因子が、脳全体で細胞タイプの分類を決定する上で1つの役割を担っていることが分かった。
一方、Joseph Ecker、Bing Renらは、ヒト、マカクザル、マーモセット、マウスの一次運動皮質における遺伝子制御を比較した。その結果、多発性硬化症、神経性食欲不振症、タバコ依存症に関連する遺伝的バリアントが、これらの哺乳類全体で保存された特徴であることが示された。こうした知見は、この脳マップが、神経疾患と神経学的形質の一因である遺伝的バリアントを特定する上で重要であることを示している。この他にも、特殊な細胞機能に影響を与える細胞固有の遺伝的特徴を明らかにした論文や、さまざまな脳領域で細胞タイプの接続がどのように形成されているかを探究した結果を示した論文などが掲載される。
同時掲載されるNews & Viewsフォーラムでは、Maria Antonietta Toshesが、「細胞タイプのアトラスは、細胞スケールで脳の構造を理解するだけでなく、脳の進化を正確に推論するためにも重要だ」と指摘している。また、Heather Leeは「今回の知見は、神経生物学と神経疾患に関する多くの重要な発見をするための強固な基盤になった」と付言している。
doi: 10.1038/s41586-023-06812-z
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