ゲノミクス:先史時代のヒト遺骸がトレポネーマ病の起源の解明に役立った
Nature
ブラジルで見つかった先史時代のヒト遺骸から抽出されたDNAを基にして、梅毒などの病気の原因となる細菌の一族の最古のゲノムが再構築されたことを報告する論文が、Natureに掲載される。この知見は、この疾患群の起源を明らかにするために役立つ。
性病性梅毒やベジェルとして知られる非性病性梅毒など、さまざまな種類のトレポネーマ病を引き起こす梅毒トレポネーマ(Treponema pallidum)細菌は、近縁だが、それぞれ異なる亜種だ。トレポネーマ病の起源については議論があり、15世紀後半のヨーロッパでの梅毒の流行は、コロンブスの遠征によってアメリカ大陸からトレポネーマ菌が持ち込まれた後に起こったという主張もある。しかし、トレポネーマ病の流行に関するこれまでの学説は、古人骨の病理学研究に基づくものであり、この病気の原因である細菌亜種を特定するための決定的な証拠は見つかっていない。
今回、Verena Schuenemannらは、約2000年前のものとされるブラジルの埋葬地から得た4人の遺骸からDNAを抽出し、これらの人々が感染していた梅毒トレポネーマ菌のゲノムを再構築することに成功した。解析の結果、トレポネーマ病の原因病原体が、ベジェルを引き起こす現存種と最も近縁なことが明らかになった。この知見は、コロンブス以前の時代にアメリカ大陸の複数の文明でトレポネーマの感染が発生しており、コロンブスがアメリカ大陸に向けて出航する少なくとも500年前には、既にトレポネーマ病がアメリカ大陸に存在していたというこれまでの学説を裏付けるものとなった。今回の研究では、性病性梅毒(これよりも後の時代に進化したと考えられている)の出現に関する知見は得られなかったが、非常に古い時代のトレポネーマ病の蔓延と特徴を垣間見ることができる。
doi: 10.1038/s41586-023-06965-x
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