免疫学:喫煙が免疫応答に及ぼす影響は長く続く
Nature
喫煙が特定のヒト免疫応答に持続的な影響を及ぼし、その影響は禁煙後も長く続くことを報告する論文が、今週、Natureに掲載される。今回の研究は、免疫応答の個体間変動に寄与する可能性のある数々の要因を調べることを目的としたもので、ボディマス指数(BMI)と一般的なウイルスであるサイトメガロウイルスの潜伏感染も免疫応答に大きな影響を及ぼす要因であることが明らかになった。今回の知見は、感染症やその他の免疫関連疾患(がん、自己免疫疾患など)の発症リスクの基盤となっているかもしれない諸要因を洞察する手掛かりになる可能性がある。
重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)感染後に観察された臨床転帰の多様性から分かるように、免疫攻撃(細菌感染、ウイルス感染など)に対する応答の個体間変動は大きい。この変動には年齢、性別、遺伝的要因が大きな役割を果たしているが、修正可能な環境要因(生活様式など)もまた寄与している可能性がある。このような変数が免疫応答にどのように影響するかを理解できれば、治療法やワクチンの設計を改善できるかもしれない。
今回、Darragh Duffy、Violaine Saint-Andreらは、1000人を対象とした研究で、136の環境要因が免疫応答の個体間変動に及ぼす影響を調べた。著者らが特に着目したのは、サイトカインというタンパク質の分泌だ。サイトカインは、人体が病原体に感染したときに分泌され、病原体と戦うために必要な免疫応答を調整する役割を担っている。今回研究対象となった環境要因のうち、喫煙が免疫応答に最も大きな影響を及ぼすことが判明した。喫煙は、一般的な免疫応答である自然免疫と、より特殊化した病原体特異的な適応免疫の両方に影響を及ぼしていた。自然免疫応答(炎症応答の増加など)への影響は一過性であり、禁煙後に消失したが、適応免疫応答への影響は禁煙後も数年にわたって持続し、感染時やその他の免疫攻撃時のサイトカイン分泌量に影響が見られた。
BMIとサイトメガロウイルスもサイトカイン分泌に特筆すべき影響を及ぼしたことが分かったが、喫煙に関連した分散は、修正できない要因(年齢、性別、遺伝的性質など)に関連した分散と同等レベルに達していた。Duffyらは、再現コホートが存在しないことや研究対象者の遺伝的多様性が小さいことなど、今回の研究にいくつかの限界があることを認めている。しかし、今回の知見は、喫煙がヒトの健康に及ぼす影響を洞察する新たな手掛かりとなり、免疫応答の個人間変動において修正可能な環境要因が果たしている役割の理解を助ける。同時掲載のNews & Viewsでは、Yang LuoとSimon Stentが、今回の研究知見は「禁煙と健康的な生活様式をさらに奨励するための科学的根拠」になると指摘している。
doi: 10.1038/s41586-023-06968-8
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