海洋生物学:海中のヒゲクジラ類はどのようにして声を出すのか
Nature
ヒゲクジラ類は特殊化した喉頭を使って発声していることを報告する論文が、今週、Natureに掲載される。今回の研究で、ヒゲクジラ類の発声に生理的限界があることが明らかになり、このためにヒゲクジラ類だけが輸送船の騒音の影響を受ける可能性があることが示唆された。
クジラの複雑な社会的行動と繁殖行動は、独特な発声を介して行われている。クジラの祖先が陸から海に戻ってきたとき、この音声コミュニケーションを水中でも行うために、重大な適応を必要とした。ハクジラ類は鼻の発声器官を進化させたが、ヒゲクジラ類は喉頭を使っていると考えられている。ただし、どのように音を発するかは正確に解明されていない。
今回、Coen Elemansらは、岸に打ち上げられた3種のヒゲクジラ類(イワシクジラ、ミンククジラ、ザトウクジラ)の喉頭を調べ、スキャニングとモデル化の手法を用いて、発声の機構を再構築した。その結果、これら3種の咽頭にはハクジラ類には見られない特異な発声構造があり、その空気力学的振動によって音が生じることが分かった。この特殊化した構造によって、水を吸い込まないようにしつつ発声し、その際に空気を再利用することができる。
発声の計算モデルからは、不透明な水中の最大水深100メートルで、最大300ヘルツの低周波音コミュニケーションを長い距離にわたって行えることが示された。Elemansらは、ヒゲクジラ類の喉頭構造では、これよりも高い周波数の音を発することができないため、これよりも長距離(数百キロメートル)のコミュニケーションはできないと仮説を立てている。ここで重要なのは、こうした限界のために、輸送船が通常発する騒音の周波数(30~300ヘルツ)の範囲内でしか発声ができないという点で、ヒゲクジラ類の発声生理では、この周波数範囲を超えることができないため、ヒゲクジラ類の個体間のコミュニケーションは人間活動によって深刻な影響を受ける可能性があることが示唆される。
doi: 10.1038/s41586-024-07080-1
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