化学:生命の化学的起源がどのように形成されたかという謎の解明に向けた熱い流れ
Nature
生命の化学的起源に関係のある分子が、火山や地熱系に見られる岩の割れ目を通る熱流によって精製され得ることが実験室実験で明らかになった。このことを報告する論文が、Natureに掲載される。今回の研究から、生命の最初の構成要素が複雑な化学混合物からどのように形成されたかについての説明が得られた。
生体高分子とその成分の形成は、初期地球における生命の起源の重要な瞬間だった。しかし、そうした経路を実験室内で再現するのは困難で、多くの場合、これらの複雑な反応から数多くの副産物が生じる。このことは、生物を構成する生体関連物質が無視できる程度に少ないことを意味する。こうした要素を精製する方法を考案しようとするこれまでの試みでは、一度に広範囲の分子を単離することができず、方法の特異性に限界があった。
今回、Christof Mastらは、地質学的な発想によって作られた、微小な亀裂(厚さ170マイクロメートル)を有するチャンバーを使って実験を行い、アミノ酸、核酸塩基、ヌクレオチドやその他の化合物からなる複雑な混合物から前生物的な生命に関連する50以上の分子を単離した。地球の地殻には、これと同様の亀裂の巨大ネットワークが存在しており、生命が誕生する前の地球にも、こうした亀裂のネットワークが数多く存在していたと考えられている。混合物を温度勾配に沿って濾過したところ、分子構造のわずかな違いにより、特定の分子が単離され、濃縮された。
今回の実験結果は、温度差がさほど大きくなくても、数種類の前生物的分子(2‐アミノアゾール、アミノ酸など)の単離と精製にとっては十分であり、2‐アミノアゾールの濃度は最大で10倍、アミノ酸の濃度は最大で1000倍になった。こうした濃度比は、亀裂のネットワークのサイズを拡大することによって、さらに引き上げられる可能性があり、さまざまな温度、溶媒、pH値の条件下で実現できることが実証された。この実験条件では、グリシン分子の濃度が出発混合物より5倍高くなり、そのためペプチド合成の出発点である2つのグリシン分子の結合が促進されたことも明らかになった。
この方法による成功は、初期地球において自然に発生した地熱熱流がこれらの物質の分離を引き起こした可能性を示唆しており、生命の起源を研究するために必要な化合物を生産するための効率的な方法が得られたことを意味する。
doi: 10.1038/s41586-024-07193-7
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